その本を開けては、いけません。

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「よくある非科学的な話だな」 ばっさりと切り捨てた友人に、甘野ゆずりは笑う。 「まあ、けど……どんな内容か気にならないか?」 ありふれた、学校の風景。 学校まわりに気が植えられ、花壇には花が揺れる。 授業が終わり、小さなひととき。 友人と談笑したり、静かに本を読んだり。 女子に話しかけて、お菓子をゲットする陽キャがいたり。 白いカーテンが、風に揺れた。 少し前の暑さが、秋の優しい空気に変わった。 それが、嬉しく感じる。 「ならない」 またもや、ばっさりと言い切って友人はゆずりを見る。 「どうせ、作り話だよ。本を売るための。ほら、よく小説の帯も煽ってるだろ。実際に面白いか否かは、人それぞれなのにな。有名人が絶賛とか書いて購買意欲を煽ってさ」 溜息一つ。 そんな友人に、ゆずりは穏やかに笑う。 偏屈で付き合いにくい。 友人はそうよく言われるけれど、リアリストなだけだ。 それに、優しいひとなのを知っている。 迷子がいれば、交番に連れて行く。 時には一緒に、親を探してあげることもある。 弱っていた野良猫を、保護したこともある。 その猫は、いまや友人の家族。 友人によく懐き、友人の膝で穏やかに眠る。 ゆずりが遊びに行った時も、そうやって静かに丸まっていた。 「なあ、ゆずり」 「ん?」 「へたに興味を持つと痛い目に遭う。俺は、その本なんて信じないけど、忠告しておく」 ぱらり、と読んでいる本をめくりながら、ぶっきらぼうに言う。 『AIと人間の今後について』、と表紙にある。 「ん。分かってるよ。ありがとう」 かがくはすごいんだ!と、幼少期からキラキラした目で言って、それを追い求めている。 そんな友人が、誇らしい。 ゆずりが、その本にであってしまったのは、それから一週間後だった。
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