その本を開けては、いけません。

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「え?行方不明?」 夕刻。 ゆずりの家を訪ねたしいやは、目を瞬かせた。 「ええ。一週間前に、本を買ってきたと言ってね。部屋で読むから、って……それきり」 どくりと胸がなった。 「おばちゃん、ごめんなさい。ゆずりが買ってきた本を見せてくれますか?」 「ええ、いいわよ。見たところ、普通の本のようだけれど」 ゆずりの部屋に入って、綺麗に整頓された机の上を見る。 一冊の本が閉じられたまま置かれている。 『俺の生き方について あるひとりの殺し屋の話』とある。 ゆずりらしくない、と思った。 彼はこんな見るからにハードボイルドな本は読まない。 彼が好むのは、推理小説。 好みが変わった、などと話を聞いたこともない。 ほんに、よばれた。 脳裏に浮かんだことばを、必死に打ち消す。 そんな、非現実的なこと。 だけど、状況はまさに神隠し……いや、この場合は本隠しとなるのか。 しいやは、ふうとため息をついた。 「おばちゃん、この本借りても?」 「ええ」 状況が状況なので、警察にも連絡し辛いと言う。 ただ、息子が消えたことによる心配からの疲弊は顔色にしっかりと現れていた。 きっと解決策があるはずだ。 見つけて見せる、ゆずりを。
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