その本を開けては、いけません。

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温かいご飯に、お風呂。 ふかふかの布団も用意された。 出逢った男は、ユウヤと名乗った。 「すまないな。俺一人じゃ難しいことがあって。俺は、…………仲間を探したかったのかもな」 「はい」 「さっきの音は、俺じゃない。信じられないかもしれないけどな」 「いえ。信じます」 キッパリとゆずりは言った。 「ありがとう。俺は、ある約束をしたんだ。その約束を守るために戦うことになったんだ」 「はい」 「俺は、もうすぐ死ぬ。わかるんだ。心配するな、と。俺はずっと好きだと………ある女性に伝えてほしい。約束を守れなくてごめんと伝えてほしい」 ユウヤがポケットを探る。 握られたのは、お守りだった。 「必ず帰ると……約束したんだけどな。病気になっちまって。それはもう守れない」 「ユウヤさん」 この願いを託したら、みんな逃げてしまってな。 行方知らずだ。 そう、哀しく笑うユウヤ。 「分かりました、必ず伝えます。どこに行けばいいんですか?」 言えば、ユウヤはため息をついた。 「ゆずり。……この本は、彼女が願いを込めて書いたんだ。話自体はフィクションだけどな」 「え?」 「俺は、現実世界で行方不明になってる。だから、彼女が俺と過ごした日々を捏造して……そして、自分のもとに俺が戻ると願いを込めて記したんだ」 「難しい話ですね」 「ああ。現実世界の俺は、どこにいるかも分からない。だけどな、心臓疾患があるから何処かでくたばってるかもな」 日本か、世界か。 それすら分からない。 だけど、執筆する時に俺の魂は確かにこの本に入ってしまった。 生き霊なのか、すでに死んでるのか。 自分でもわからないけどな。
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