004敵意には敵意を

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004敵意には敵意を

「おはようございます、リード」 「うん、おはよう、フィール」  眠れるかどうか心配していた俺だったが、いつの間にかがっつり寝落ちしてました。まぁ朝から可愛いフィールの笑顔が見れてラッキーだと思おう、そうして俺は荷物をもうまとめておいた。それから宿屋の飯屋でパンとやっぱり野菜のスープを食べる、正直に言って味が薄いのだがやっぱりフィールは何も言わずに食べていた。朝食を終えると少し休んで胃を落ち着かせ、それからまた命綱をつけて俺たちは空へと舞い上がった。 「はぁ~、朝の空も素敵です。リード」 「そうだね、俺もそう思うよ。フィール」 「お天気が晴れで良かったですわ」 「俺もだ、なるべく雨の中は飛びたくない」 「お昼になったら適当なところでご飯ですよ」 「可愛いフィールと一緒に食べれるなら俺も嬉しいよ」  俺が可愛いと褒めた瞬間、フィールはまたポッと赤くなっていた。これは脈ありだろうか、少しは俺も男としてフィールに認識されていると思いたかった。そうして俺たちは朝から昼まで空を飛び続けた、昼になったら下りてせっかくだからと串焼きを作ることにした。街で買っておいた肉を鉄串を通して焼いてみる、もちろん塩と胡椒をたっぷりかけた。すると肉はジュウジュウと焼けていき火が通ったようだった、みるとフィールも思わずよだれをたらしていた。 「さぁ、フィール。どうぞ、あとはいつものパンだけど、この串焼きは美味しいぞ」 「いただきます。はふっ、はふっ、はふっ、肉汁がたっぷりで美味しいですー!!」 「はふっ、はふっ、はふっ、本当だ。やっぱり塩胡椒をたっぷりかけると美味い」 「胡椒はお高いと聞きましたが、リードさんお財布は大丈夫ですか」 「うっ、確かに胡椒は高かった。でも、昨日は金貨一枚を稼げたからどうにかなった」 「美味しい串焼きです、そういうことなら気にしないことにします」  昼食の後はお茶を飲んで、交代でトイレ休憩に行くと、俺たちはまた空へ舞い上がった。本当に気持ちの良い晴れの日で、空を飛んでいるのも楽しかった。俺は地図を確認しながら空を飛んでいった、俺が目指しているのは政情が安定していて安全だというテスティス国だ。そうやって地図を見ていたから発見が遅れた、俺たち以外に空を飛んでいる奴がいた。 「フィール、フードを深く被って顔を隠せ」 「はい、分かりました」  俺もフードを深く被って相手に顔が見えないようにした、逆に相手は余裕で高そうな服を着て顔を晒していた。そして空を飛んでいたそいつは俺の飛行に合わせて飛ぶようにしやがった、茶色の髪と同じ色の瞳をしていたが、油断ができない目つきでこちらを見ていた。 「やぁ、こんにちは。僕はトレイド・アクシオン・メルカート、メルカート国の第三王子だ」  メルカート国といえばまさに今、入国した国だ。その国の第三王子がいったい俺たちに何の用だろうか、俺は用心しながらそれを聞いてみた。 「こんにちは、トレイド殿下。それで俺たちに何の御用でしょうか?」 「こんにちは、トレイド殿下」 「何も大したことじゃない、空を飛んでいるのは男の方だな。是非、我がメルカート国の軍に入って欲しい。女の方は空が飛べないなら特に用はない」 「大変申し訳ありませんが嫌です、俺は俺の意志で好きな場所を飛びたい」 「用が無いならこれで失礼します」 「まぁまぁ話だけでも聞いてくれ、我がメルカート軍は素晴らしいところだぞ。”炎の矢嵐”」  突然トレイドとかいう奴が攻撃をしてきた、炎の矢が雨のように降ってきたが、俺は空を飛んでいる軌道を変えてすべて避けてしまった。敵意には敵意を、俺は精霊に俺たちを助けてくれるように願った。 「”遮る霧”それに”防御の壁””雷の嵐”」  俺は水の精霊に霧を作らせて俺とトレイドとの視界を塞いだ、それから光の精霊に光の防御壁を俺たちの周囲にだけ作って貰った、そして広範囲への雷の攻撃だ。ドドーンという音がして雷がどこかに落ちた。霧の中で目を凝らしてみると見事にトレイドに雷は命中していた、トレイドは最後の力を振り絞ってかフワフワとゆっくりと下に落ちていったが、俺は一度もう敵とみなした相手を逃すつもりは無かった。 「”稲妻の一撃”」  俺が放った雷の一撃はトレイドの息の根を止めた、トレイドは黒い人形のように焼かれボロボロと崩れて消えていった。その時、俺は背中を拳で叩かれた。叩いたのはフィールだった、その可愛い緑色の目から涙を零しながら、尚もフィールは俺の背中を叩き続けた。そして、泣きながらフィールは俺に抗議した。 「こっ、殺さなくても良かったんじゃないですの!?」 「先に敵意を向けたのはあいつだ、敵意には敵意を俺は返すようにしている」 「一人の人間の命ですのよ!! そんなに簡単に奪ってしまっていいのですか!?」 「最初にしてきた火の攻撃だって、俺がどうにか避けなければ俺たちが死んでいた」 「でも!! それでも!?」 「フィール、こんな手段しかとれなくてごめん。俺は全く酷い臆病者だ、敵の息の根を止めておかないと安心できないんだ」  俺はフィールに心から謝った、こんな手段しかとれなくてごめんと謝った。フィールは目にいっぱい涙をためて、俺の背中で泣き始めてしまった。背中にフィールの温かさと、同時に彼女の涙の冷たさを感じながら、俺はどうすれば一番良かったのかと考えていた。そうやってメルカート国を通過したらもう夕方だった。俺たちは近くにあった街の傍の森に下りた、フィールは目が赤かったがもう泣いてはいなかった。俺は彼女に何て言っていいか分からず途方にくれた。そうしたらフィールの方から話しかけてきた、目はまだ真っ赤だったが俺に笑いかけてくれた。 「敵意には敵意を最もなことです、でもリード。私は貴方にもっと違う人間になって欲しい」 「もっと違う人間?」 「貴方には七種の精霊様のご加護があるのです、それならばちょっと攻撃してくるくらいの相手、反撃して捕らえられるくらいになって欲しいです」 「それがどれだけ大変なことか分かっているのか?」 「ええ、命を奪うより大変で危険なことでしょう。でも、私はそうなって欲しいのです」 「…………努力する」  俺の言葉にフィールは頷いて、それから俺の手をとって街に入っていった。通行料は相変わらず三倍の銅貨六枚だ、これもなんとかしなければならない問題だった。そして攻撃してくる相手を無力化する、俺はそのフィールの思いを叶えてやりたかった。だから次に空で誰かに会った時には、まずはよく話し合ってみようと思った。その後、フィールと一緒に夕飯を食べた。 「固いパンと薄いスープにも慣れました」 「まぁ、食えるだけ幸せだよな」 「リード、ご飯が食べられないことがありましたの?」 「金がなくてなぁ、何も食べれないことがあったよ」  俺はそう前世を思い出してフィールと話していた、今でも食べられるだけでも幸せだ。この街でもスラムの奴らだと食べたいものも食べられないだろう、俺も稼げなかったらいつスラム落ちするか分からなかった。今はとにかくテスティス国まで辿り着いて、それから猟師なんかやって稼いでいければ良かった。 「早くテスティス国に着きたい」 「もう、あとどれくらいですの?」 「もうあと二日くらい飛べば着くはずだ」 「私も早くその国へ行きたいですわ」 「噂話だと政情が安定していて、豊かな国らしい」 「ますます早く着きたいですわね」  それから今日は贅沢して風呂付の二人部屋にした、風呂がついている部屋なんて贅沢を俺一人なら絶対にしなかった。でもフィールは公爵令嬢だ、毎日入浴ができていたはずの人種だ。思った通りフィールは部屋のお風呂を見て目を輝かせていた、そして俺に抱きついてきてありがとうと言ってくれた。 「良いお湯でしたわ、旅の疲れもとれたみたいです」 「それじゃ、次は俺が入る」  俺は破壊的に可愛いフィールのお風呂あがりの姿を見ることができた、これだけでも十分に俺は幸せだった。更にフィールが使っていた風呂に入って、男の子特有の欲求がわいたので速やかにすませた。声を抑えていたからフィールには気がつかれなかった、気がつかれていたら恥ずかしくて死ねるほどショックだ。 「あー、やっぱりフィールをお嫁さんにしたいなぁ」
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