第二章./仮面(イツワリ)の摩天楼

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 彼の、人間離れしたシルバーブルーの頭がなめらかに、屈められ。  あっ────、と思う間もなく掬い上げられた  その、ちいさな手の甲に、やんわりと押しあてられたダークレッド色味の唇。  常より彼の唇に咥えられていることが茶飯事(さはんじ)のはずの、薫りのつよい煙草。  それが────"初めて"。  彼の手により、"(おの)ずから"解放させたその、きっぱりとした薄い紅唇が、  なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく  注目を集めている彼女の、細身な手の甲に、口付けを落とされた、というのが一部始終。  ────…この異例事態は常時では  到底、  (おもんぱか)れることではなかった。  そんな例外事項に、先駆け提唱したのは瞭然(りょうぜん)、当の本人同士、  ・・・・・・ではなく。  すべての顛末(てんまつ)を眺めていた  至るところの  芸能人や富豪主、長者たちであった。  ────「何、どういうことだ?  、…あの娘、  船岡ホールディングス出の醜女(しこめ)じゃなかったのかい?」  ────「儂ゃ知らんぞ、あんな女子(おなご)は。  なぜ  ()の方が自ら出向いておられるんだ?  ご親戚か?」  ────「まさか。  ウォン家直系の親族にあのような娘は  おられなかったとおもうが、」  ────「では、  琉皇(るおう)家のほうからお出ましに?」  ────「いや、(おおとり)財閥からかも  しれんぞ。あそこは以前にも  養子として黎蘭(れいらん)家の御息女を御披露目されたことがあったからな」  ────「それはそれは、」
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