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あちこちから浮上してくる、どれもこれも信憑性に欠けた憶測が飛び交う状況には頭を、抱えざるを得ないが。
尾鰭のついた噂ほど、愉快なモノはない。と言わんばかりに自発的に拡散していく、形の無いソレら。
しかしわざわざ、訂正も収拾もされるでもなく、ただ。
────そう、ただ。
覇者の空気を携えるがまま彼らは
その、沈黙を呈する異色の少女にのみ、視線を送るばかりである。
「っあ、あの、アーウェイ様っ、」
「パーティーでは"一度も"、お見かけしたことがありませんので
少々、気になりましてね。
『本年』の、
いつ頃から船岡ホールディングスの秘書に?」
「ッ、え…?えぇ、
……えっと、」
ツイ、と流し目に移された若干、吊り目気味の、銀色の瞳。
自分を、見てくれたという歓喜と、その向けられた双眸からは、紛れもなく怒りの色が滲みでていることにも漸く、気付いたらしい船岡のご令嬢は。
あまりの恐怖にグッ、と固唾を呑み下してしまう。
…それでも、しどろもどろに返答するべく、震えた唇を、
恐る恐る動かして、
「…ッ、し、仕事に慣れて、もらう、まで、は……。あの、弊社で研修、を…」
「なるほど。だが、────秘書とは
社長や代表を、影から表から凡ゆる方面でサポートを行う
精密な職種柄です。時に
先回りしてスケジュールまで組まなくてはならない、」
「っも、もちろんっっ。…」
「取引先やその他諸々。
重役たちが円滑にコミュニケーションを図るための最重要な大仕事を、
この、"口の聞けない"彼女がいったい、どのようにして
請け負っておられるのか。
些か興味がありましてね、」
まして、────…御身内の規律には、厳重な主従関係を重んじられる船岡ホールディングスともあろうご令嬢の、秘書とは…、と、どこか底意地の悪さをも含ませたアーウェイからの質疑には。
周囲の来賓たちもざわり、ザワリ、顔を見合わせ
懸念を深めた反応を醸し出していく。
・・・・・・たしかに。
言われてみれば、そうかも知れない、などと。
彼らはおもい思いに顎に手を添え、アーウェイの尤もらしい意見の引用に
賛同するべく
ウンウン、と首肯していた。
────…ところが、
当の猜疑心を煽るように口にした男の、純銀色の双眸はどこか隠しきれぬ劣情と狂気を孕んでおり、
ソレは相変わらず
俯きがちの少女に向けられ、その
冷静な分析ですらもまるで、
少女に対する
非難のように、思えた────…、
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