第二章./仮面(イツワリ)の摩天楼

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 あちこちから浮上してくる、どれもこれも信憑性に欠けた憶測が飛び交う状況には頭を、抱えざるを得ないが。  尾鰭(おひれ)のついた噂ほど、愉快なモノはない。と言わんばかりに自発的に拡散していく、形の無いソレら。  しかしわざわざ、訂正も収拾もされるでもなく、ただ。  ────そう、ただ。  覇者の空気を携えるがまま彼らは  その、沈黙を呈する異色の少女にのみ、視線を送るばかりである。  「っあ、あの、アーウェイ様っ、」  「パーティーでは"一度も"、お見かけしたことがありませんので  少々、気になりましてね。  『本年』の、  いつ頃から船岡ホールディングスの秘書に?」  「ッ、え…?えぇ、  ……えっと、」  ツイ、と流し目に移された若干、吊り目気味の、銀色の瞳。  自分を、見てくれたという歓喜と、その向けられた双眸からは、紛れもなく怒りの色が滲みでていることにも(ようや)く、気付いたらしい船岡のご令嬢は。  あまりの恐怖にグッ、と固唾(かたず)を呑み下してしまう。  …それでも、しどろもどろに返答するべく、震えた唇を、  恐る恐る動かして、  「…ッ、し、仕事に慣れて、もらう、まで、は……。あの、弊社で研修、を…」  「なるほど。だが、────秘書とは  社長や代表を、影から表から凡ゆる方面でサポートを行う  精密な職種柄です。時に  先回りしてスケジュールまで組まなくてはならない、」  「っも、もちろんっっ。…」  「取引先やその他諸々。  重役たちが円滑にコミュニケーションを図るための最重要な大仕事を、  この、"口の聞けない"彼女がいったい、どのようにして  請け負っておられるのか。  (いささ)か興味がありましてね、」  まして、────…御身内の規律には、厳重な主従関係を重んじられる船岡ホールディングスともあろうご令嬢の、秘書とは…、と、どこか底意地の悪さをも含ませたアーウェイからの質疑には。  周囲の来賓たちもざわり、ザワリ、顔を見合わせ  懸念を深めた反応を醸し出していく。  ・・・・・・たしかに。  言われてみれば、そうかも知れない、などと。  彼らはおもい思いに顎に手を添え、アーウェイの(もっと)もらしい意見の引用に  賛同するべく  ウンウン、と首肯していた。  ────…ところが、  当の猜疑心(さいぎしん)を煽るように口にした男の、純銀色の双眸はどこか隠しきれぬ劣情と狂気を孕んでおり、  ソレは相変わらず  俯きがちの少女に向けられ、その  冷静な分析ですらもまるで、  少女に対する  非難のように、思えた────…、
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