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____…時間にしてわずか、約数分間の、一方通行な対話。
ピリピリ、と。徐々に緊迫と冷気で張りつめていく会場の空気に、素封家や成金は無論。
大資本家や大企業の権力者、
またアラブ連盟関係者各位から、貴族や華族出のご令嬢・ご子息たちまで。
皆、面差しがしだいに強張っていくのを、止められはしなかった。
凍りつくような重圧感。
じわりじわりと押しつけられ、息苦しくなってゆくほどの…、
そんな、だれもが畏怖し、固唾を飲むしか敵わない状況に突如、緩和剤のごとく
終止符が打たれたのは────…、
どこか落ち着きはらった女性の声が。
淡く、会場内に浸透し響き渡ってからだった────。
「…何をしているの、」
柔らかく、しかし女性の声にしては低めの、
「────、ッ。緋雪、様」
ゴクリ────ッ。誰とも知れない、夥しい人々の固く、喉を鳴らした息遣いが途端に、撹拌した。
静かに現れたその女性を、茉美子は『様』と名打った。
それだけでどれほどの地位に値する人柄なのかを裏付ける。
茉美子は、その円みがかった目許を綻ばせると、茶色とグリーンの混色アイを喜色に変え
『緋雪』と名指す女性の傍へと、足を赴かせたのである。
「ッわ、わざわざ来てくださったんですか?今日は伺えないって、」
「えぇ、そのつもりだったんだけれど。去年も茉美ちゃんの
誕生会には出席できなかったから、」
「そっそんなこと!お気になさらなくっても。…龍牙、様や皆様が、
緋雪様を公に晒すのは
あまり
好まれていないのは承知していますから」
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