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煙介達の耳にけたたましいパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「煙介ぇっ!警察くるよっ」
「分かってる」
煙介は倒れているネドから情報を聞き出そうと近づく。
「おいっ。あいつの弟をどこにやった」
「……」ネドに反応はない。強く殴りすぎたかと煙介は思い、ネドの体に触れようとした時、
「ガァッ!!」ネドは右手を振り、手の中に隠し持っていたアスファルトの塊を煙介に向けて投げた。塊は煙介の顔面に飛んでくる。煙介は顔を逸らして躱したが頬をかすめてしまった。
「おぉ…、いてて」頬をさすりながら煙介はひとまずネドと距離を取った。
「調子に乗るなよクソッ…」ネドは起き上がりながら悪態をつく。
「随分顔が歪んでるな。これ以上怪我したくなかったらさっさと弟の居場所教えろ」
息が荒いネドは膝をつきながら煙介達を睨む。体を半身にし、右手をアスファルトに突っ込む。
「あいつらは、能力者か?」
「あん?」
「こんなところで俺が、終わると思うなよ…」
「おい、質問に答えろよ?」
「あの女共の距離なら、こいつを当てることなどわけないぞ!!」
ネドはぐっと踏ん張りに右手に力をいれる。煙介はその行為に嫌な予感を感じ取り、素早く煙草を取り出す。
「桐子!伏せろ!」
「アスファルトの弾丸をくらえ!!“散弾ッッ”!!」
煙介が桐子達に向かって叫んだ直後、ネドが地面から手を振り上げた。それにより複数の小さなアスファルトの塊が桐子達に飛んでいく。桐子は聖を庇うようにして体を伏せた。
「“壁の煙草”!」
煙介は桐子達の盾になるように割り込み、火を点けて、喫い上げていた煙を即座に吐き出した。宙にフワフワと漂う煙にネドが繰り出した無数の小さなアスファルト弾がぶつかる。
がしかし、それが煙を突き破ることはなかった。ぶつかった弾は煙にはじかれ地面に転がった。
「このやろっ」
煙介は煙をかいくぐり、ネドの姿を探したが、すでにそこにはだれもいなかった。あの隙に逃げられてしまったようだ。
「おまえら大丈夫か?」
「なんとかね」
「は、はい」
咄嗟のことだったので、煙介が吐いた煙は少量だったが、なんとか桐子達に怪我はなかった。
「とりあえず事務所に戻るぞ。警察にあれこれ聞かれたら面倒だ」
「ゆ、勇太は…?」
「それもあとで考える」
煙介達は急いでその場を離れた。勇太が暴れた後とネドがボコボコにした地面が凄惨さを語っていた
事務所に戻った煙介と聖は一息ついた。桐子も管理人室に戻ることにし、事務所内は二人だけとなった。ちなみに管理人室はビルの一階、草刈相談所は四階に位置している。
『先程騒動があった現場です。アスファルトが荒れ、街路樹も倒れています。怪我人も複数確認されたという情報があります。爆発事故の現場で確認された少年の姿が目撃されており、少年の力により荒らされたものとして…』
そこで煙介はテレビを消し、コップに水を注ぎ聖の前に置くも、ソファに座る彼女はずっと俯いたままで何も喋らない。先程のことがかなりショックだったようだ。
「弟を連れていった奴を知っているんだよな?」
「……」聖は無言で頷く。
煙介は聖の傍に寄り、膝をついて目線を合わせる。
「乗り掛かった舟だ。最後まで付き合ってやる」
「……」
「弟は絶対に見つける。原因となった奴らもぶっ飛ばしてやる」
「……」
「何とかしてやる、約束だ。だから、……泣くな」煙介は力強くそう言った。
「………はいっ」
涙で声がかすれながらも聖は答える。目の前の男に全てを託す。目元を擦り、顔を上げ、煙介にしっかりと向き合った。
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