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子供は選ばれた男女から生まれるので、人口問題もすぐに解決された。だが、その子供が常に優秀な人間に育つとは限らなかったため、政府が特別な階層に必要な人間以外は、一般人として社会に放っていた。子供の人工的な出産は計画的ではあったが、政府に残る人数の割合は、1割程度。あとは一般人とされた。
このような人間が今ここにいる賢治や大悟であって、生かされるためだけに生かされていた。
生かされるだけに生かされるという言葉は、正確ではないかもしれない。それはいかに社会を征服していた政府であっても、「人殺し」をすることにはやはり抵抗があったのか、ダメ人間を意味もなく人為的に始末することはできなかっただけである。
そして、このような一般人が生かされていた理由はもう一つ。政府の特権階級の人間が病気などで必要なとき、秘密裏に臓器が提供されていたことは、誰にも知られていない。
そんなことが数世紀続くと、人がその昔、四足歩行から二足歩行に進化したように、最初は政府のやることに疑念を抱き、反対運動も起こっていた。だが、それも政府の強力な軍に鎮圧されるといつの間にか沈静化した。
そしていつしか今の生活に満足するようになると、ただ生きるために生きるという生活に、何の疑問を抱かなくなってしまう。それは二足歩行に進化したことと同義で、退化も急速に同じ道をたどったといえよう。
そしてこのような一見のどかで平和な時代が続いたが、そんな中にあっても、自分たちの存在に疑念を持つ者が現れるのは自然な摂理であったことだろう。それはいつの時代でも同じであろうが、人は過去に学ぶことがある。ある時代に栄えた文化や思考などの歴史は、この時代であっても博物館で検索することができた。
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