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そして、店に通い詰めて4か月。与作はとうとう早希を口説き落とし、結婚の約束まで。
夢のような新婚生活を楽しんだ与作は、いや楽しみ過ぎたのかもしれない。何事も過ぎたるは及ばざるが如しという。
二月もしたある日、持病が悪化して病院に運び込まれる。
慌てて駆け込んだ若妻の早希、「あなた大丈夫?」とベッドにかけよる。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとうよ、心配してくれて」
「あたり前じゃないの、あなたの妻だもの」
「うん、そうか。でも、わしももう若くはない。もしものことがあれば全財産はお前のものじゃ」
「ありがとね。でもあなた長生きしてね。あたしにできることあったら何でも言って」
「そうか、優しいね。では、すまんが今お前が踏んでいる酸素の管から足をはずしてくれ」
与作は息も絶え絶えに若い早希にお願いする。
その願いもむなしく、与作はその三日後あの世に旅立つ。
それからひと月も経っていないというのに、大きな屋敷のリビングに早希は若い男をはべらかせ、大音量でクラシックを聴いている。
もちろんこの屋敷は与作の家である。
テーブルの上にはマテニィとレミーが置いてある。ステレオからはベートベンの運命が流れている。
「ジャジャジャーン」と、第一楽章アレグロコンブリオだ。
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