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恐る恐る再生ボタンを押す。しばらくすると、「キュイーン」という音ともにCDが回り始めた。ラジカセの調子が悪くなったのは先月のこと。CDが回るだけでなぜか音が流れなくなった。単に買い替え時ということかもしれないが、あの人が買ってくれたものなのでそう簡単には手放せない。
「何が悪かったんだろう? 私がもっと丁寧に使ってあげてたら今も普通に聞けたのかな?」
夜な夜なそんなことを嘆いていたら、娘の美咲が友人のツテで修理店を紹介してくれた。みっちり一週間、丁寧に修理していただき、先ほど無事にお迎えした。直ったことはお店で確認済みではあったが、実際に家で聞くまでは気を抜けない。
(お願いだから元気になって)
ハラハラしながら念を送り続けていると、ピアノの優しい音色がひとつ、ふたつと鳴り始める。それを聞いた瞬間、全身の力が一気に抜けて「ほう」と変な声が出た。
「よかった」
零れ落ちた言葉は思ったより反響する。そういえば、ひとりだった。美咲も独立したし、あの人もここに帰って来ることはもうない。
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