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「今日くらい、いいかな?」
はにかみながら顔を上げると、本棚の上で写真の彼が笑っていた。私は相槌を打ちながら、彼がいつも座っていたところへマグカップを置いてあげた。彼のやつは持ち手がブルーで、私のやつはピンク。ピンクなんて我ながら全く似合わない──いや、似合わない歳になってしまったと思った。
「お茶入れるね」
可愛いすぎる自分のマグカップをテーブルに残し、ふたたびキッチンへと赴く。
「美咲がさ、教えてくれたんだけど」
私は戸棚を漁りながら、お供にする紅茶のティーバッグを選び始めた。
「昔の曲でもインターネットで調べたら簡単に聴けちゃうらしいの。そんでさ、このCDの曲も見つけてくれて……URLっていうの? なんかこれ押したら聞けるよって、こないだメッセージ貰って……だけど、全然違う曲みたいに聞こえちゃって、一回聞いたらもういいかなってなっちゃった。まあ、ラジカセ無事に直ったから、もういいんだけどね」
そう言い終えるタイミングで、電気ポットの中にお湯がほとんどないことに気付いた。全くないわけではなかったが、明らかにひとり分。いつもならいいが今日はダメだ。でも、今日はその「足りない」が嬉しかったりする。
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