木曜日が聞こえる。

4/11
前へ
/11ページ
次へ
「今日くらい、いいかな?」  はにかみながら顔を上げると、本棚の上で写真の彼が笑っていた。私は相槌を打ちながら、彼がいつも座っていたところへマグカップを置いてあげた。彼のやつは持ち手がブルーで、私のやつはピンク。ピンクなんて我ながら全く似合わない──いや、似合わない歳になってしまったと思った。 「お茶入れるね」  可愛いすぎる自分のマグカップをテーブルに残し、ふたたびキッチンへと赴く。 「美咲がさ、教えてくれたんだけど」  私は戸棚を漁りながら、お供にする紅茶のティーバッグを選び始めた。 「昔の曲でもインターネットで調べたら簡単に聴けちゃうらしいの。そんでさ、このCDの曲も見つけてくれて……URLっていうの? なんかこれ押したら聞けるよって、こないだメッセージ貰って……だけど、全然違う曲みたいに聞こえちゃって、一回聞いたらもういいかなってなっちゃった。まあ、ラジカセ無事に直ったから、もういいんだけどね」  そう言い終えるタイミングで、電気ポットの中にお湯がほとんどないことに気付いた。全くないわけではなかったが、明らかにひとり分。いつもならいいが今日はダメだ。でも、今日はその「足りない」が嬉しかったりする。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加