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「調べて何でも聞けちゃうとか、すっごく便利な時代になっちゃったよね」
私は流れるように戸棚を閉め、ヤカンに水を入れる。充分な量を入れたらコンロに火をかけた。耳を澄ますと、小鳥の囀りのようなフルートが聞こえてくる。私の大好きな二曲目が始まったようだ。ヤカンを一瞥したが、さっき火にかけたばかりなので、当然ながらまだ沸きそうにない。早々に時間を持て余しそうになったが、その打開策を閃くのは早かった。
(たしかまだ残りがあったはず)
電子レンジ横のお菓子缶。蓋を開けると、思った通りクッキーがまだ五枚ほど残っていた。私は幼い子どもみたいにニヒヒと笑いながら「どれにしようかな」と口遊む。そうして厳選されたクッキーひとつと、さっき選んだティーバッグふたつを持ってリビングへと舞い戻った。
「何の話だっけ……ああ、そうそう! 便利な時代になったねって話! 生きてけばさ、たぶんもっともっと便利な機械とか出てくるんだろうね……そう、それでさ。実は私、思うことがあって」
腰を掛けると同時にクッキーの個包装を破る。出てきたのは小さくてまん丸な、マーブル柄のクッキーだった。
「CDってハイテクじゃない?」
そんなことを言いながらクッキーを彼に見せびらかしてみたが、心なしか写真の笑顔が呆れて見える。「あーはいはい」と適当にあしらわれたような、そんな気分。
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