0人が本棚に入れています
本棚に追加
潔良は無言で、また、首を縦に振る。
がくり、と細い首が、折れるように動いた。
「あれの異名、スライドとか、ウエーブとか、あと、英語だとタイムラグ、とか、けっこういっぱいあるんす」
「よく調べたな」
潔良がやっと、声を発する。
視線はまだ、星をなくした空を見上げたまま。
「でしょう」
気丈に、少しだけ、微笑む。
雛見市の瞳からもいつしか、普段の明るさが消えていた。
真剣な目。
「そん中にはですね。えっと、……『ゴースト』ってのも、あるんですよね」
「……」
潔良は何も、返答をしなかった。
今度は、離れた位置に生えた一本の大樹の方に、じいっ、と視線を注いでいる。
雛見市もつられて、そちらを見やる。
「えっ?」
木が、がさがさ、と音を立てて揺れた。
――風もないのに。
「ひぃちゃん……」
潔良の方を見る。
特に驚いた様子は、ない。
「なにが、見えてるんですか」
返事は帰って来ない。
肩をつかみ、揺さぶる。
「しっかりしてください! 戻ってきてください!」
彼の身体は、無抵抗のマネキン人形のように、身じろぎ一つしなかった。
力の抜けた肢体が、ゆっくりとくずおれ、地面に転がる。
「潔良センパイ! しっかりして……!」
後輩の呼び声が山中にこだまする中、
木々についた葉が、風もないのにわずかに、揺れていた。
最初のコメントを投稿しよう!