モノクロームと花火、ゆるやかな懸想

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 潔良は無言で、また、首を縦に振る。  がくり、と細い首が、折れるように動いた。 「あれの異名、スライドとか、ウエーブとか、あと、英語だとタイムラグ、とか、けっこういっぱいあるんす」 「よく調べたな」  潔良がやっと、声を発する。  視線はまだ、星をなくした空を見上げたまま。 「でしょう」  気丈に、少しだけ、微笑む。  雛見市の瞳からもいつしか、普段の明るさが消えていた。  真剣な目。 「そん中にはですね。えっと、……『ゴースト』ってのも、あるんですよね」 「……」  潔良は何も、返答をしなかった。  今度は、離れた位置に生えた一本の大樹の方に、じいっ、と視線を注いでいる。  雛見市もつられて、そちらを見やる。 「えっ?」  木が、がさがさ、と音を立てて揺れた。  ――風もないのに。 「ひぃちゃん……」  潔良の方を見る。  特に驚いた様子は、ない。 「」  返事は帰って来ない。  肩をつかみ、揺さぶる。 「しっかりしてください! 戻ってきてください!」  彼の身体は、無抵抗のマネキン人形のように、身じろぎ一つしなかった。  力の抜けた肢体が、ゆっくりとくずおれ、地面に転がる。 「潔良センパイ! しっかりして……!」  後輩の呼び声が山中にこだまする中、  木々についた葉が、風もないのにわずかに、揺れていた。
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