モノクロームと花火、ゆるやかな懸想

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(さすが陽キャ、器用なものだ――大勢の人にも、まるで臆してない)  あっという間に潔良のいるこちら側へと人波を渡り終え、雛見市(ひなみいち)は非難がましい目で彼を見上げた。 「遅いっすよ! おれに気づいてんのに、ちっともこっち来ないんですもん! しかも手ぇ振られたから、そんまま帰るつもりじゃないだろうなって思いましたよ、一瞬」  すごい剣幕である。  普段はだらしなくにへにへと緩んでいる口元が、今はへの字を象っていた。 「いや、ごめんって」  潔良は顔をうつむけ、ごにょごにょとした口調で弁明に走った。 「その、人にぶつかりそうで、怖くてな……万が一そうなっちゃったら、因縁つけられて、カツアゲとかされそうだなって思って……」 「ひぃちゃん、マジうける。ビビり過ぎでしょ」  後輩は不満げだった表情を一気に崩し、きゃらきゃらとおかしそうに笑った。 「今どき、そんなことする奴いるんすかね。……まぁでも、センパイみたいなひと相手だったら、多少気が大きくなりそうな気もするなぁ」 「すまん。勘違いだったら申し訳ないが、お前今、オレのことをさらっと馬鹿にしてなかったか?」 「気のせいっすね」 「気のせいか……」  納得のいかなさそうな顔をしている潔良。  雛見市が意地悪く目を細め、潔良の胸をちょん、と突っつく。 「センパイ、陰キャだからって、そんなにおれらに怯える必要はないんすよ?」  生意気な後輩の発した煽るようなセリフを受けて、彼の視線がより明確な殺意を帯びた。 「うっせぇな。怖いもんは怖いんだよ……カツアゲなんてされたら、ただでさえ軽いオレの財布がすっからかんになっちまうじゃねぇか」
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