1人が本棚に入れています
本棚に追加
鼻の頭をかきながら、おどけたように言う。
さっきから引っかかっていたことを、潔良は質問してみることにした。
「なぁ、さっきから気になってたんだけさ。……口調が、いつもと違う気がするんだけど」
「あ。バレちゃいましたか。――気づいてないかと思ってたのに」
後輩は口を大きく開け、あははは、とおかしそうに笑う。
下を向き、呟くように言った。
「なんかですね。……距離近いというか、その……。これまでのおれって、なんか……後輩のクセに、ひぃちゃんに対して、なれなれしすぎたかなって」
だから、いっかい、敬語で話すようにしてみて、反応を見てみたかったんす。
もし、そのほうが良いのなら、これから変えていこうと思って――。
声をだんだん低めていき、彼は顔を上げた。
潔良の顔を、まっすぐ見つめる。
どこかさみしそうな瞳が、花火の光を反射して、複雑な色に輝く。
「……ひぃちゃんって、最近、あの黒髪のひととばっかり、仲良さそうにしてるから」
「……!」
潔良の視線が、うろうろと泳いだ。
口を開きかけ、また閉じる。何回か、その動きが繰り返された。
空で輝く、大輪の花。
その残骸がぱらぱらと宙を舞い、消える。
潔良はそれを、綺麗だ、と思った。
後輩の目を、見る。
同じように、彼の瞳も彩られている。
息を吸って吐く。呼気がわずかに震えたので悟られないように、唇を軽く結ぶ。汗ばむ額を乱暴に手の甲で拭うと、結わえた前髪がそれに引きずられへばりつく感覚。いやに不快さを増して、伴った。
べたつく手をシャツの裾に、何回か擦る。体側に放った腕はほんの少しだけ、不自然な軌道を描いた。
後輩の眼を再度、見る。
最初のコメントを投稿しよう!