モノクロームと花火、ゆるやかな懸想

7/10
前へ
/10ページ
次へ
 勢いのままにぷらぷらと揺れていた腕が、しんと動きをなくした。  真摯に向けられた後輩の瞳が、少し、沈む。  光量が、減ってゆく。  夜のざわつく空気を揺らす音に、かき消されそうな声が、かぼそく響く。 「……やっぱ似合わない、ですか。おれじゃ」  青々と伸びた下草がさあ、と揺れた。  風はそれきり凪いだ。  祭りの喧騒はもはや、彼らからは遠い所にあった。  二人はしばし、互いを互いに探るように、立ち尽くしていた。  速いリズムが、やたらに強く内側を叩く。  潔良の身体が不意に、ゆらり、と傾いだ。  片足のつまさきを軽く地面で、二、三回、ととんっ、と弾ませる。舞踏会みたいに軽快な音が鳴ることはなかった。  擦り減った、危なっかしい感じの靴が、下草を踏みしめる。  湿り気を帯びた音が、鋭敏になった彼の耳に、軟膏を塗るときのようなぬめりを彷彿させた。  微かに顔をしかめ、緩んで半分ほどひたいに垂れ落ちたポンパドールを、面倒くさそうにほどく。  解かれた前髪を片手で捕まえ、ヘアゴムを不器用に扱う様子を、雛見市は何も言わず見守っている。  潔良がうつむき、まだるっこしそうに一度、うまく結べないでぐしゃぐしゃになった髪を手櫛でくしけずった。  真白くてぴんとしたハーフパンツの裾を指先でつっつきながら、雛見市が頬に手をあてがった。   それにしても暑いよな。  虚空に呟きは消えた。  んん、と咳ばらいをし、笑顔を浮かべる。 「だいじょぶ?おれが結ぼっか、ひぃちゃん」  返事はない。  そして―― やっと髪を結い終えた潔良が迷うように首をかたむけ、視線を、後輩に合わせた。  そのまま一歩、距離を詰める。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加