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勢いのままにぷらぷらと揺れていた腕が、しんと動きをなくした。
真摯に向けられた後輩の瞳が、少し、沈む。
光量が、減ってゆく。
夜のざわつく空気を揺らす音に、かき消されそうな声が、かぼそく響く。
「……やっぱ似合わない、ですか。おれじゃ」
青々と伸びた下草がさあ、と揺れた。
風はそれきり凪いだ。
祭りの喧騒はもはや、彼らからは遠い所にあった。
二人はしばし、互いを互いに探るように、立ち尽くしていた。
速いリズムが、やたらに強く内側を叩く。
潔良の身体が不意に、ゆらり、と傾いだ。
片足のつまさきを軽く地面で、二、三回、ととんっ、と弾ませる。舞踏会みたいに軽快な音が鳴ることはなかった。
擦り減った、危なっかしい感じの靴が、下草を踏みしめる。
湿り気を帯びた音が、鋭敏になった彼の耳に、軟膏を塗るときのようなぬめりを彷彿させた。
微かに顔をしかめ、緩んで半分ほどひたいに垂れ落ちたポンパドールを、面倒くさそうにほどく。
解かれた前髪を片手で捕まえ、ヘアゴムを不器用に扱う様子を、雛見市は何も言わず見守っている。
潔良がうつむき、まだるっこしそうに一度、うまく結べないでぐしゃぐしゃになった髪を手櫛でくしけずった。
真白くてぴんとしたハーフパンツの裾を指先でつっつきながら、雛見市が頬に手をあてがった。
それにしても暑いよな。
虚空に呟きは消えた。
んん、と咳ばらいをし、笑顔を浮かべる。
「だいじょぶ?おれが結ぼっか、ひぃちゃん」
返事はない。
そして―― やっと髪を結い終えた潔良が迷うように首をかたむけ、視線を、後輩に合わせた。
そのまま一歩、距離を詰める。
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