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氷寄潔良は轟音の鳴り響く野外で、生温い空気のなかを遊泳していた。
周囲には人、人、そしてまた人。鼻腔を抜けて行くのは、混ざり合った種々雑多な食べ物の香り。
金魚に七宝、牡丹――色とりどりの浴衣を着、華やかに装った人の群れに圧倒されながら、潔良はつと立ち止まり、視線を彷徨わせた。
待ち合わせている人物の姿は、今のところ見当たらない。
賑やかな雰囲気に呑まれていることを自覚しつつも、彼は心の中でひそかに、花火柄の白地のシャツに紺のジーンズ、という己の野暮ったい出で立ちを悔いた。
平々凡々の権化のような自分の姿が、この波のなかから奇妙に、ぽつりと浮き上がっている――それを少し上から、じっと見つめている――そんな映像が、不意に頭に浮かぶ。
ふよふよと意識が、どこかへ向かおうとしている。
ぐらり、と。
潔良の足がふらついた。
身体のコントロールを、失いそうになる。
――遠のく。
「あ。ひぃちゃーん! こっちこっちー!」
素っ頓狂で快活な声に名を呼ばれ、浮遊していた自我が振り向いた。
彼の目に、ゆるりと正気が戻る。
揺れていた身体が平衡を得て、ぴたりと静止した。
声のする方に目を向ける。
ごみごみとして犇めく群衆に埋もれそうになりながら、ダークブロンドの頭がぴょこぴょこと跳ねていた。
懸命に伸び上がって、高々と上げた手を振り回している。
周囲の人々が微笑みながらそれを見、続けて潔良のほうに怪訝そうな視線をよこした。男同士で待ち合わせするのは、そんなに不自然なことなのだろうか。
潔良と目が合った端から、彼らは嫌そうに眉をひそめて、足早に歩き去っていく。
潔良は目を閉じた。
自分自身への嫌悪の混じった呼気を、喧騒に溶かした。
目を閉じて暗闇にうずまっていると、最近、なぜか心が安らぐことに、彼は薄々気づき始めていた。
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