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私の兄が戦場へ行って半年が経った。
不安と心配と、想像したくない現状が苦しい......。
惨状と激化の報せばかりが続いていたからだ。
「お母さん、兄さんの服に何をしてるの?」
母は、兄の私服の白いシャツに、ポケットをたくさん縫い付け始めたのだ。
「五体満足で帰還できる為に祈願したいの」
そうして母は昼夜問わず作業している。
しかも、かなり恐ろしいことを言いながら。
「爆破で吹き飛ばされて身体がバラバラになっても
あの子が全部、このポケットに入れて持って帰れるように。
あぁ、これも、これも必要ね」
なんと途方もない願いだろう......。
だけど届いてほしい。
この大きな望みが、遠い遠い戦場までポケットが届けと願いながら。
私も作る手伝いをした。
そんなときに夢をみた。
銃声と怒号と悲鳴が響く暗闇のなかで……兄の声がした。
「足りない。ポケットが足りないから、持って帰れない」
ポケット?私と母が作り続けている、あの服のこと?
「兄さん!なに?何が足りないの?
お母さんが、私が、あんなにたくさん作っているのに!」
「……命……」
そこで目を覚ました。
私は悩み抜いた末に、あることを連想して赤い布を探した。
それをハートのカタチに切り取り、服の左胸に縫い付けてみた。
数か月後。
兄は無事に戦争から帰還できた。
生きるに必要なすべてをポケットに入れてかき集めて。
――完――
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