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本当に天使かと疑いたくなる。
天使の皮をかぶった悪魔なんじゃないだろうか。
だけど悪魔を彷彿とさせるような表情ではないことも事実。目が笑っていないとか企むような暗い笑みだとか、そんなことは決してなくて。
「ほらほら、ポケットの中で何か鳴ってるよ?」
ヴェルに言われて我に返った俺は、ジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
震えるスマホには「出たら千円あげる」と表示されていた。店長だ。
収入がなくなるかもしれないのに千円あげると言われても、むしろ出たくなくなる。しかし今はそんなことを言っている場合ではない。
「はい、佐川です」
『あぁ佐川くん。急なんだけど――』
電話の向こうが随分と騒がしかった。
どうにか店長の声を辿っていくと、『店潰れたからもう来なくていい』と言われてしまった。
信じられない気持ちでふわふわと浮いているヴェルを見る。
まるで褒めて褒めて、と言わんばかりの顔で俺を見ている。
「うそじゃなかったでしょ?」
電話を終えた俺に、ヴェルはそう言った。
心臓がぎゅっと握られるような気持ちの悪い感覚。
「他にも叶えて欲しいことがあるなら、叶えてあげるよ!」
「……なんで、俺なんだよ」
まるで子どものような無邪気さゆえの残酷さ。
どこまでも澄み切った眼差しなのに、こんなにも恐怖を感じる。
俺はこの天使とも悪魔ともつかない相手から距離を取りたくて後退った。
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