アナタの一冊、ワタシの一冊。

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気を取り直して、次。 参考人②、父。 「運命の一冊??そりゃもちろん、この『釣り名人、魚村魚助の超絶マル秘テクニック集』だな!!この本のおかげで、父さんは釣りという趣味と出会えたんだ!魚村先生は父さんの釣りの師匠だぞ!会ったことないけど!!」 そしてまともに魚が釣れたことないけど。 親父が運命の一冊だと言ってきたのは、最近ハマりだした釣りのガイドブック?みたいなやつだ。親父はこの本を読んで意気揚々と釣りに行くけど、毎回ボウズ。必ずボウズ。これはもう本が悪いか、それとも親父が本を凌駕する勢いでセンスがないかのどっちかだ。 「逸郎も一緒に釣りに行こう!釣りはいいぞ〜、すべてのストレスから解き放たれるし、釣り糸を垂らしてる間は、太公望(たいこうぼう)になった気分だ!それに魚と一対一の勝負をしてる時なんて、なんていうか自分を試されてる感じがして、」 「はいはいはいはいはいはいはい、」 これ以上は聞いてられない。俺、釣りには興味ないし。親父の話を適当に切り上げて、俺は次の参考人のところへ向かった。 「運命の一冊ぅ〜……?そうだねぇ…、あんたのお父さんの小学校から高校までの通知表を貼り付けた、このノートかねぇ…。おばあちゃん、あんたのお父さんがオール5を取ってくるのが、誇らしくてねぇ…。嬉しくて嬉しくて、こうして全部ノートに貼り付けて、保管してるんだよ。ばあちゃんが死んだら、これも一緒に棺桶に入れてね…。」 俺にそんな教育ママの狂気の結晶みたいなものを見せられても困る。 参考人③は、俺のばーちゃん。 ちなみに分かると思うけど、父方のばーちゃん。 ばーちゃんは、とにかく親父が大好きで大好きで、『LOVE息子!』なのはよく知ってたけど、こんな恐ろしいノートを隠し持ってたのは初めて知った。おふくろが見たら、目を剥きそう。 ていうか、もはやそれは運命の一冊ではなくて、『一緒に火葬されたいほど大切な一冊』では。お題から遠ざかってる気がします、ばーちゃん。 「そ、そっか…、覚えてたら棺桶にいれるね…。」 駄目だ、俺の家族からはロクな回答もらえない。両親とばーちゃんと俺の4人暮らしだから、これにて家族への聞き取り終了。時間の無駄に終わった。
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