1 ハロウィンパーティー in S市

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「菫さんだって。すごく似合ってますよ?」  そう言って、鈴は菫を見下ろしていた。  菫の方は特に大げさな仮装はしていない。先日。『友達』とハロウィンパーティーに参加すると職場の人たちに話したら、昨日までに職場の方々が持ち寄ってくれた仮装グッズの数々から当たり障りのないものを選んだだけのものだ。  世界的に有名な某魔法学校の制服。魔法使いの三角帽子とマントにしようとかな。と、話していたところ、小柏女史に『君はS市職員のくせにハロウィンパーティーをなめとるのか!』とお叱りを受け、何故か男性サイズの不思議の国のアリス風衣装を持って来られたため、26歳成人男性のエプロンドレスという誰も得をしない参事から逃れるため、苦肉の策として司書仲間の息子さんが去年のハロウィンパーティーの仮装コンテストに参加するのに購入したものを借り受けた。 「……おっさんのハ〇ーとか、可愛さの欠片もないけどね」  旬は過ぎているとはいえ、ハロウィンにはまだまだ定番の仮装衣装だ。見回すと可愛い女子の〇リーだって、たくさんいらっしゃる。ただ、定番だからこそひねりもないし、女子と違って色気も足りない。お茶を濁した感は否めない。鈴がここまで本気の仮装で挑むなら、自分ももちょっとはこったものにしたらよかったなと菫は後悔していた。 「十分に可愛いです」  何か重大な秘密でも話すように菫の耳元に口を寄せて、鈴が言う。  耳元にかかる吐息。甘くて低いイケボ。思わず耳元を抑えて顔を見上げると、鈴はやっぱり上機嫌で笑っていた。すごくすごく楽しそうだ。 「す……ずは。その。目悪いよな」  今日はコンタクト(シルバーの色付き)をしている鈴が、本当に近視なのはもちろん知っている。ただ、その菫の返事はただの嫌味? 強がり? 謙遜? だ。鈴が本気でそう思ってることくらいはさすがの鈍い菫でもわかっていた。 「や……美的センス?」  きっと、鈴は菫がどんな格好をしていても『可愛い』というだろう。ミイラ男をしていても、ジェイ〇ンの格好をしていても、カボチャを被っていても。それこそ、アリスの格好なんてしていたら、即おうちに連行されかねない。 「菫さんの可愛さがわからない美的センスなら要らないです」  もう一度耳元で囁いて、鈴は菫の顔を覗き込んだ。面では隠しきれていない。イケメンがはみ出してしまっている。  今さらながら、どうしてここまで完成度が高い鈴が自分に執着するのかわからない。何度も何度も考えたことだけど、答えは出なかったし、多分、ないのだろうと思う。菫だって、同性の鈴のことをどうしてこんなに好きになったのかなんてわからない。  わからないけれど、好きだ。  そういうことなんだろう。
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