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薄暗い部屋でボイスレコーダーに向かって、思いのたけを喋りかけて一旦やめた。普通に恨み辛みを述べたところで、今更彼の気が変わるはずがない。
「赤ちゃんごめんね……。生まれてくるときに、親を選べればよかったのにね……」
お腹をさすって話しかけるけど、まだ何の反応もない。ポトリと落ちた涙が、その手の甲を濡らす。
「親を選べたらね……」
もう一度ボイスレコーダーを手にすると、録音ボタンを押し、今度は英語で喋った。
次に封筒を用意して『沙織へ』と書くと、便箋を取り出してボールペンで文章を書く。内容を読むと、沙織というのは親友のようだ。
沙織さんにパパへボイスレコーダーを渡して欲しいとお願いして、封筒の中に入れると、用意してあったロープを、ドアレバーに括りつけて輪っかを作った。
しゃがんでロープに首を通す。
「祐くんと一緒になれないなら、絶対に生まれ変わって祐くんの側に……」
美音の観ているビジョンが真っ暗になった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「美音、しっかりしろ」
「ええ、アタシは大丈夫よ……祐くん」
「えっ、祐くんって……オマエ……」
「お姉ちゃん……」
ニヤリと口角を上げるその顔は、美夢が知っている優しい姉の顔ではなかった……。
了。
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