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「…」 瞬きもせず私を見つめる瞳に、暗示でもかけられたように魅入ってしまう。 「傍系は常識知らずって本当だったのね」 「ご覧になって、あの情けない姿」 返答も出来ない私へのあからさまな嘲笑が耳に届いた。 プライドの高い母なのにずっと頭を下げたまま。それに倣って深々と後頭部を晒す父の縮こまる背を見て、いよいよ血の気が引いてくる。 早く謝らなきゃと思うのに、口がうまく動かない。無音のまま開いた唇が呼吸で乾燥し出した頃、はやっと表情を和げて慈愛の笑みを浮かべた。 「名前はなぁに?」 これが最後のチャンスだと子供ながらに理解して、震える喉の奥から声を絞り出す。 「と、、戸川…戸川百音です…」 「ももねって言うんだ。どういう漢字なの?」 「数字の百に、音楽の音…」 「ふぅん。百に音か。それにしては随分静かなんだね」 嫌味なのか、思ったままを告げたのか。 どちらにせよ返答しずらい言葉の後に、彼は「百音。百音かぁ」と噛み締めるように何度か私の名を誦じて「じゃあ、今日から君はモモだね」と、ぬいぐるみに名付けるような軽さで明るく目を輝かせる。 「モモのご両親も頭を上げていいよ?」 そう声を掛ける彼は、それでも両親に視線を向けることなく、私以上に無価値で雑な扱いを沢山の人の前でしてみせた。
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