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「え〜、朝から時生の顔なんて見たくないよ…」
「なら起きて下さいっ」
「モモってば、最近めっきり僕の扱いが上手くなったよねぇ」
やれやれ、と諦めた柊様がやっと上半身を起こした。
寝起きですら輝かしいのはなぜなのか。
一瞬たりとも醜い瞬間がない柊様は嫉妬心も湧かないほど常に完璧に美しい。今も、乱れた髪すら妖艶で、気怠げな雰囲気すら儚さを醸している。
「それにしても、朝からモモを見れるなんて、やっぱりお父様にお願いして正解だった」
パァ、と表情を明るくさせた柊様は、未だ摘んでいた指に自分の指を滑らせて、根本を擦り合わせるように手を握りしめた。密着した手はガチガチに固められ、ちょっとの事では離れそうにない。
「モモと暮らせるなんて、毎日が楽しいよ」
高校に入学して3ヶ月。タチが悪い程に無邪気な柊様は、しれっと私の志望校を変更させ、いつの間にか自分と同じ学校への手続きを済ませ、近いからという理由で私を本家に住まわせるようになった。
柊様の『物』になってから、私の意見はないに等しい。
柊様はとても優しいご主人様であるが、自分の願いを叶えるためには他人の犠牲を厭わない困った部分もある。それが許される立場にあるから我儘は増悪の一方だ。
特に最近は、理由をかこつけて私を必要以上に側におこうとしている気がして他ならない。
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