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進路の件だって悲しくないと言えば嘘になるが、最近はもう諦めている。どう足掻いても柊様の願い通りになるのだし、無抵抗が誰にとっても一番平和に過ごせることを学んだ。
それに、柊様は私が思い通りでいさえすれば、本当に優しいのだ。
「ほら、モモおいで」
手招きをする柊様に頭を近づければ、空いている方の手で私の髪を梳き「モモは本当にかわいいねぇ」と目を細めてちゅ、と私の額に軽く口付けた。
側仕えになった直後こそ突然の接触に驚愕を隠せなかったが、今では彼流の挨拶だと理解しているし、なんならペットへの愛情表現に近い。
柊様にとっては取るに足らない行為でも、神様から加護を授かっているような粛々とした気分になるのだから、類まれな美しさには価値がある、と離れていく唇を見て思った。
不躾な視線が気になったのか、柊様は「なぁに?」と薄く笑い、握った手に力を込める。
「いえ、なんでも…」
「そんな視線送ってきて?」
「大したことじゃないんです…ただ、毎日見ていても美しいな、って」
思っただけなので、と本音を漏らせば、嬉しそうに上がる口角。
「そう?ありがとう」
「はい、本当に美しいです」
柊様程美しい人を、私は見た事がない。
少年の頃も可愛らしかったが、年々磨きがかかり、今では神々しいほど。
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