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「時生はいっつも最悪のタイミングで現れるよね」
眉を寄せた柊様が私の後頭部を引き寄せて、えいっ、とし損なったキスをした。
「っ、」
ちゅ、と軽く触れる程度だとしても、今まで人前でされた事はない。
慌てて時生さんを見ればバッチリ目があって、羞恥で顔が熱くなるが、当の本人は全く表情を変えず「百音にも用意があるので、そろそろお離し下さい」と静かに嗜めた。
「時生ってば本当につまんない男〜」
「つまらなくて結構です」
「お前なら混ぜてあげてもいいと思ってたのに、やーめたっ」
「混ぜるとは」
「そりゃ、僕達のこれからのあれこれだよ?」
「…お戯も過ぎると百音に嫌われますよ」
抽象的な言葉の羅列を理解できる時生さんは流石と言うべきか。これが理想的な側近の姿。残念ながら私には何一つ分からない。
「え、モモ僕の事嫌いになるの?」
完全に蚊帳の外だと思って油断した。急に振られた話題にぎこちなく「ん?!…い、いえ」と慌てて否定したものの、柊様の望んでいた答えではなかったようで。
彼はちぇ、と口を尖らせ「だめだよ。モモは何があっても僕を嫌いになっちゃ」とミシミシ音が鳴りそうな程手を握りしめられて悲鳴が漏れそうになる。
「もし嫌いになったら許さないから」
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