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喜びと忍耐。恐れと恍惚。羨望と嫉妬。色々な感情がない混ぜになって、最早自分ですらよく分かっていない。
ただ一つ言えるのは、私自身が得た物など何もない、という事。
側仕えになって、何人もの人が私を羨んだ。「お前如きの家柄でこれ以上ない出世だ」と、馬鹿にしてるのか誉めているのか。心無い言葉を浴びせられた事も数えきれない。
意見には概ね同意だ。柊様に選ばれるなんて滅多にない幸運、更には可愛がってもらえるなんて身に余る栄誉。
『近衛』の影響力はとてつもなく大きい。
父の会社もどうやら私のおかげで好調らしいし、母は嫌がっていた親戚の集まりにも嬉々として参じるようになった。弟も柊様の母校の小学校に通い高度な教育を受けている。そこでも一目置かれていると教えてくれたのは、側仕え後急に距離の近くなった叔母だ。
本家で教育を受ければ受けるほど、『近衛』の大きさに平伏しそうになる。それこそ「私如きが」と何度も思うくらい巨大な歴史も権力も恐れ多く、パーティーでの私の振る舞いに青ざめる。
だが、それと同時に時代錯誤では、と思うのも事実。
権力者の側が幸せだと疑う事もない親族が、私からおこぼれを狙うハイエナにしか見えない。
その甘い蜜は柊様のものであって、私のものではないのに。
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