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私の立場は柊様の興味に依る期間限定の危うい物。なぜそれに、父も母も気づかないのだろう。私はそんな不安定なものに自分の人生を賭けられないし、他人ありきの生活なんて望んでいない。
…今はペットに甘んじているが。
「学校行かなきゃ…」
青白い頬を自分で摩ると少しだけ赤みを取り戻した。
よし、と気合を入れて鞄を肩に掛ける。玄関に向かえば送迎車は既に横付けされていて、後部扉の前で柊様の到着を待つ。
じり、と額に汗を浮ばせる夏の足音。
梅雨がとうに過ぎ去った日差しは容赦がなく、ポロリと、涙のように汗がこめかみから滑り落ちた。
私の今の人生はまさにこれ。車に乗るタイミングすら自分で選べない。
柊様の事は嫌いじゃない。
嫌いな人なんていないと思う。
あんなに美しく清らなか人。側にいるだけで浄化されそうな、光を常に纏っているような人。
我儘に困る事もあるけれど、それを補って余るほど美しく、優しく、甘い。
どれだけ神に愛されればあんなに輝くのか。あの美貌が私に微笑み掛け、愛情を向ける事に得意げな気持ちにもなるし喜びも感じる。
だけど、彼の側にいる為に多くの物を失った気がしてならない。
友人や時間。趣味や本来の性格。思い出や経験。
そして選択肢。
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