216人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「それにしても本当にいい天気だ」
背筋を伸ばしたまま窓から景色を眺めている柊様が、首を傾けた拍子に目元に前髪がかかった。朝はあんなにフニャフニャでもやはり近衛の後継者なんだと、凛とした姿勢から感じる。
こういう時の柊様はどこか儚く神々しい。
「柊様、失礼致します」
声を掛け、伸ばした手で前髪を横へ流せば、顕になった美しい瞳が私を横目で捉え嬉しそうに細められた。
「ねぇ、モモ」
「はい」
「来週から夏休みだね」
「そうですね」
今更改まってどうしたのだろうと様子を伺えば、顔全体をこちらに向けた柊様が目を三日月のようにして微笑んだ。ゾワリと寒気がしたのは、車内の冷房が効きすぎたせいであって欲しい。
「とびっきりのサプライズがあるから、楽しみに待っててね?」
嫌な予感しかしないのは流石に失礼だろうか。
でも彼がこんな表情をする時は、決まって誰かを困らせる時。そして今回のターゲットはどうやら私のようだ。
「さ、サプライズですか?なんでしょう。気になるなぁ」
せめて心の準備をしておきたい。
「まだ内緒だよ」
「ヒント下さい」
「だーめっ」
モモは絶対驚くだろうなぁ、と笑う瞳の奥が、陰の気配を纏ってゆらり、妖しく揺れた。
最初のコメントを投稿しよう!