0

3/8
前へ
/51ページ
次へ
「そうなの?知らなかった」 そう嘯く少年はくすりと笑い、視線に好奇心を携えて、ゆっくりとした足取りで私に近づく。 「君おもしろいね。名前教えて」 「人に名前聞くならそっちから…」 ざわ、とどよめく観衆の変な空気。 顔を顰めて成り行きを見守る彼の父。 人生で1番注目を浴びているのだから、何かがおかしいと理解していた。 けれど負けず嫌いな性格は、一度強気な言葉を放ったが最後。後には引けず、場が重くなるのを肌で感じながら、作り物のように美しい少年を不機嫌に睨みつける。 「大体、初対面の人にタメ口なんて礼儀がなってないです」 母を真似て、精一杯背伸びした大人のセリフを口にすれば幾分胸がすくが、思った以上に青ざめた周囲の人が視界に入り、あれ?と今更疑問が頭を過ぎった。 パーティー前、両親に口酸っぱく言われた言葉。 『本家の方々に逆らうな』 2週間前から飽きる程復唱させられた本家関連の情報。ご子息が『ひいらぎ』という不思議な名前だったような、違ったような。 あれれ?ともう一度少年を見つめれば、彼はわざとらしく口角を持ち上げた。 「僕は近衛柊(このえひいらぎ)です。君の名前は何ですか?」 「…この、え」 「うん。近衛柊」 『近衛』とはまさしく本家本元の苗字なわけで。という事はあの冷たそうな彼の父は御当主様なわけで。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加