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「そうなの?知らなかった」
そう嘯く少年はくすりと笑い、視線に好奇心を携えて、ゆっくりとした足取りで私に近づく。
「君おもしろいね。名前教えて」
「人に名前聞くならそっちから…」
ざわ、とどよめく観衆の変な空気。
顔を顰めて成り行きを見守る彼の父。
人生で1番注目を浴びているのだから、何かがおかしいと理解していた。
けれど負けず嫌いな性格は、一度強気な言葉を放ったが最後。後には引けず、場が重くなるのを肌で感じながら、作り物のように美しい少年を不機嫌に睨みつける。
「大体、初対面の人にタメ口なんて礼儀がなってないです」
母を真似て、精一杯背伸びした大人のセリフを口にすれば幾分胸がすくが、思った以上に青ざめた周囲の人が視界に入り、あれ?と今更疑問が頭を過ぎった。
パーティー前、両親に口酸っぱく言われた言葉。
『本家の方々に逆らうな』
2週間前から飽きる程復唱させられた本家関連の情報。ご子息が『ひいらぎ』という不思議な名前だったような、違ったような。
あれれ?ともう一度少年を見つめれば、彼はわざとらしく口角を持ち上げた。
「僕は近衛柊です。君の名前は何ですか?」
「…この、え」
「うん。近衛柊」
『近衛』とはまさしく本家本元の苗字なわけで。という事はあの冷たそうな彼の父は御当主様なわけで。
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