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「柊様。朝ですよ。起きて下さい」
朝に弱い主人を起こすのは、ここ最近加わった役目の一つ。
「…遅刻してしまいます…柊様っ、」
控えめに揺さぶるのが悪いのか、声が小さいせいなのか、他の人ではこうはならないのに、私が起こす時はいつも無駄に時間が掛かかる。
「柊様っ!!」
何度目かの掛け声で、ようやく「ん…モモ?」と目を薄く開けた柊様が、おはよう、と口元に笑みを見せてまた目を閉じた。
「目開けて下さい!柊様、困りますっ」
「あと5分…」
「本当に遅刻してしまいます!」
「モモも一緒に寝よう?お布団気持ちいいよ?」
ふにゃりとした笑顔のまま、柊様が布団の端からひょこりと出した手で私の人差し指を摘む。
「ね?早く一緒に寝よう」
「また寝ぼけて…もう起きる時間なんです」
こんなやり取りとここ最近毎朝しているものだから、学校へ辿り着く頃には既にヘトヘトだ。
「柊様!時生さん呼びますよ」
時生さんは私達の一つ上で、私と同じく柊様の側仕えだ。とは言え、私とは比べ物にならない由緒正しい家柄で、側仕えというより柊様の右腕、腹心、はたまた懐刀と言った方がいい気がする。
私が飼い犬なら、彼は寵臣と呼べるだろう。
そして唯一、柊様が言う事を聞く人物でもある。
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