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未来のために(10)
レナータ「……っ……ユ……ユーディットぉぉ……あたしぃ……は……」
ユーディット「誤解してた、でしょう? ……あなたはあなた自身を誤解していた。あなたはジークくんを誤解していた。あなたはわたしを誤解していた。……わたしも、レナータを……誤解していた……」
レナータ「……ぅ……ぅん……はっ……ぁあ明日、魔の城に行くって決まってるんなら……ジークに連絡してっ……明日の対策を、たてましょう! ……ね、そうしましょうよ!」
ユーディット「……」
レナータ「……三人で力を合わせればっ……事前にあたしらが対策を講じておけば……ユーディットが一人で、城に乗り込まなくてもよくなるはず! ジークにも魔の城こと、詳しく教えてあげて!」
ユーディット「……」
「えーと、えーとっ、あとは……」
あれこれと思いを巡らすレナータをユーディットは再び、抱きしめた。
「あ、んもぅ、ちょっと、くっついてないで……ジークのところに行くわよ……」
レナータの声に重なるようにユーディットは述べた。
「……レナータ。ありがとう。あなたの顔を見ていたら、決意が揺らいでしまう。わたしはいつまでも愚かな人間に失望してきたけれど、人間らしいあなたを見ていると……どうしてか、希望を抱ける。あなたたちが向かうタイムラインを変更したりはできない。時間とは直線的なものではない。これを地上の人間は知らない。……あなたたちの現実を変えてあげたいの。……わたし、あなたとわかりあえてうれしかったわ。……あの通路でわたしと会ってからの記憶を消去してあげる。このままでは……繊細なあなたは忘れられない痛みを抱えてしまう。わたしを嫌ったままでいてくれた方が、あなたは忘れて許せる。……レナータ、大好きよ。……ありがとう……ジークくんを頼んだわ」
「えっ!? だいすき?? ……それはその……もぅ……わかってぇ……るぅ、ってば……んっ……あ、あぅ……」
レナータは急に全身のちからが抜けてしまい、床へ崩れ落ちた。
ごろん、と横になったレナータを見ていたユーディットは軽々と彼女を抱き上げた。
ドアが開き、部屋から出たユーディットはオレンジ色に染まっている通路を歩き出した。
……いたい……いたい……いたい……心が……痛い……。
レナータやジークくんに求められれば、求められるほどに、心が痛む……。
どうして?
……いいえ……その答えは……知っている……。
それは……まだ、ここにいたい……と、天使核がふるえるのを、無理に抑えようとするから……。
……フフフフフフフフ……あなたたちには、人間には未来が必要よ……。
わたしは、これで思い残すことがなくなった……。
あなたがいてくれたなら……ジークくんも、地上の人間も大丈夫……。
……さようなら……大好きなレナータ……。
ありがとう……ありがとう……すまなかったわね……。
内部を見透かす夕日が通路を照らしている。
沈む夕日を横から受けたユーディットは抱き上げているレナータへ透き通った眼差しを向けながら、歩いていった。
オレンジ色に染まったユーディットが通路を曲がると、彼女の足音だけが遠ざかっていった。
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