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未来のために(6)
ユーディット「……そうかしら? フフフ……レナちゃん、人間らしくいうと……誰かが生まれると誰かが喜び、誰かが死ぬと誰かが悲しむ……何が起きるのか不明ななかで、自らも他者も生存しているだけで十分なんだ……と……単純に考えているの?」
レナータ「…………。ぇ、えっらそうに!! 天使のあたしに人間の感覚なんて、通用しないわよ!! ぉぉお説教するつもり!?」
ユーディット「……レナちゃん、あなたが人間だとして……あなたを常時いじめ続けていた者が突然死したら……あなたは悲しむどころか、喜ぶでしょう? ……また、生きていても退屈で、願いが満たされず、苦痛が継続する限り、早く死んでしまいたい、と感じるかもしれない。言い換えると、生存しなくなるといい、と。……肉体という監獄と精神という牢獄に閉じ込められているんだ……と感じられないならば、人間は幸せでいられる。……ただし、そのような人間のためだけに人生はあるのではないの。何かを呪い、不平不満の毒液を撒き散らしている人間が、どれほどいると思う? ……破壊の天使であるあなた自身……それは、よく知っているのではなくて?」
レナータ「…………」
ユーディット「地上の人間にとっての真実は、黒色でもないし、白色でもないわ。いわば、灰色なものが地上に生きる人間にとっての真実なのよ。……生が善で、死が悪だと論じるのは、驚くべき愚かな思考の産物ね」
レナータ「……そりゃ、そう……かも……人間だったら、それはそうだろうけど……あ、あたしは天使だから……あ、そそそそそそうだ!! ジークは、ジークのことはどーすんのよ!? あんたが消失したら、ジークは……立ち直れないわよ!! ジークは、それこそ、どうにかなっちゃうじゃない!! ジークは……ぁ、あんたを好きなんだから……」
ユーディット「……そちらから言ってくれるのならば、はなしは早い。……ジークくんをあなたへお願いしたいの」
レナータ「へ?? ……ジ、ジークを? ……なに、それ……。ぃ、いやよ……そんなの……ジーク……は……あんたを好き、なのよ……ジーク……は……あたしを……好きなんじゃない……でしょ……?」
ユーディット「それは、違う。まったく違う。ジークくんはいつも、あなたのことを想っている。わたしといるときも……ジークくんの心の中には、あなたがいる。……いま隣にいるのが、ユーじゃなくて、レナだったら、どうなんだろう……と、ジークくんはよく考えているの。……レナが好きだ、と。ジークくんは自分さえ良ければ、他はどうでもいい……という考えの持ち主ではないわ。……わたしは相手の放つ波動を読み取れる。……ジークくんが口に出さなくとも、彼の心の中は……彼から発せられる波動により、わたしには筒抜け。……わたしの気持ちがあなたにわかるかしら、レナちゃん」
レナータ「…………。ジーク……が……あたし、を……」
ユーディット「好きなのよ」
レナータ「……好き……」
ユーディット「愛してるのよ」
レナータ「……愛してる……」
ユーディット「ジークくんが好きなのは、ジークくんが必要とするのは、わたしではない。わたしは代理にすぎない。……あなたにジークくんをお願いしたい。これが、あなたへ伝えたかったことのふたつめ」
レナータ「…………」
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