未来のために(7)

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未来のために(7)

ユーディット「夜明け前は最も暗い。ジークくんは……わたしの消失後……心を閉ざしてしまうでしょう。……けれども、消えたのがわたしでよかった。わたしではなく、あなただったのならば……彼は悪魔よりも直接的に人間へ厄災をもたらす天使となるでしょう。統一感に欠けた行動しか取れない悪魔たちが暗闇に染まった天使に率いられると、強力な軍勢となるのは歴史が証しているわ。……伝説の堕天使といわれるルシフェル……付き従っていた悪魔たちからは、ルシファー様と呼ばれていた者のことを思い出して。……天界から堕天する者はもう出したくない。……ジークくんとレナちゃんを救う、これが……わたしの望みなのよ」 レナータ「…………」 ユーディット「わたしが消えるのと、あなたが消えるのとでは、水溜りがなくなるか、湖が干上がるかの違いがある。わたし、というよりは……ジークくんが、あなたを救う。彼はあなたを救ってあげられる。……そのためにわたしは準備を整えた」 レナータ「準備……? ……け、けど……あんた自身はどう思ってるの!? ジークを……好きなんじゃないの、あんた?? ジークと別れたくないでしょ、あんた? ……い、いつも、二人で手をつないで、帰ったり……ジークはあんたの住んでるところによーく行くし……ジークがつくった料理たべて、あんた……喜んでるじゃないのよ……」 ユーディット「…………。……はぁ……。わたしが、ここまで伝えているのに、まだ、わからないの?」 レナータ「えっ?」 ユーディット「……自らで自らがわからないとは、なんという悲劇なのかしら。鈍くて愚かなのね、人間らしい破壊の天使ちゃん。……それよりも、いいの? わたしを痛めつけなくて。……明日になったら、わたしはあなたと顔を合わせることもなく、定められた任務につかなければならない。したがって……今の、この場が、最適なところなのではなくて? これまでのわたしへの恨みを晴らす……決戦の間なのよ、ここは。……違うかしら? ……はじめて会ったときから、レナちゃんはわたしを気に入らなかったでしょう?」 レナータ「……あ……あたしだって、あたしだって……最初っから、あんたと仲悪くなりたかったわけじゃないわよ。あんたとケンカするために、ここに来たわけじゃない。……悪魔を叩き潰し、あたしのちからを奴らに知らしめるために来た! ……ただ、あんたがっ……」 ユーディット「……感じ悪かった、のでしょう。……わたしは時空眼(じくうがん)で相手の波動を読めるもの。すぐにわかる。ジークくんの件も含め、わたしの存在はあなたにとって、目の上の(こぶ)となった。……わたしは……あなたをわかっていたわ。……最後になるので……本音を言わせてもらうと……わたしは、あなたを……新入りちゃんではなくて……レナータ……と、そのまま名前で呼びたかったのよ」 レナータ「!!?? ……な、なら、そぅ……呼べば……ぃーじゃないの……べつに、ダメとは言ってないしっ……」 「…………。……レナータ」  少しうつむいたユーディットは顔をあげた。 「!!!!!!」  時空眼(じくうがん)とは、こんなにも美麗なものだったのか、と相手の瞳を見たレナータは瞬時に魅了されては、心身がビクッとした。
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