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未来のために(8)
ユーディット「あなたを好きだったわ。わたしにないものをもっているあなたは、魅力的。レナちゃん、人間らしい矛盾を許してほしい。わたしはあなたを愚鈍だと感じていた。しかし、嫌いではなかった。わたしは……レナータを嫌ったことはない。……あなたはあなたが考えるほど、嫌われてはいないのよ。わたしはあなたが愛しかった。愛しいあなたと、心を通わせたかった。それは……そう……心残りね……。ジークくんが……わたしに代わって、行ってくれる……」
レナータ「……ぁぁぁあ、あ、あたしは……あたしは……。あたしは……あんたと、一番最初は……と、友達になりたかったのよぉ……けど、けど、あんたの態度があまりにカチンとくるから……だからぁ……」
ユーディット「わたしにも、至らぬ点はあった。あなたを見下していた。……悪役を演じるのも、今日で終わりよ。……ごめんなさい、レナータ……。わたしは消える。それで……許してほしいの……。忘れてほしい。……ジークくんが……あなたを想っているのを感じ取るたび、胸の中、いいえ心が痛かった。天使核が啼いてはふるえた。それを、その軋みをなくしたかった。ゆえに魔の城へ向かう日を……わたしは……ひたすら待ち続けていた。……レナータ……こんな、わたし……を……許して……」
「はっ……ひぃゆぅ!!!!! なっ、なにをを……」
魅了されて、とろけた心身では相手を拒めない。
透明な風のように進んできたユーディットに抱きしめられたレナータは硬直した。
……………………。
ユーディットに抱きしめられたレナータはそのままだった。
こんなやつに抱きしめられるなんて、冗談じゃない……と、わきあがってくるはずの拒否感はまったく感じられず、逆に強い安心感がレナータを包んでいたからだった。
固まっていたレナータは全身の緊張感が溶けてゆくのを感じた。
……ふしぎ……不思議……不思議だった。
こんな感覚ははじめてのものではないだろうか。
とろんとしたぬるい空気へ包み込まれている気がする。
すると、徐々に細かなせつなさが、ゆるい電流みたいに伝わってきた。
ゆったりとした感覚と、どこかにある悲しさがレナータの心を刺激してきたのだった。
さらには相手が愛しくて、離れたくないとの想いが、波となって悲しさへ強弱を付け加える。
動いて止まらない悲しさは彼女の心の柔らかい部分を刺してきて、痛みから逃れようとゆらゆら動く心が、相手と同調する天使核が、声にならない悲鳴を上げ始めたレナータは、自らが涙を流しているのに気付いた。
レナータ「……っ……ぅ……っ……ふ、ぅ……っ……」
ユーディット「……あら。なぜ、泣いているの? ……レナータ、あなた……強がってはいても、人間のように心は弱いままなの?」
レナータ「……ふっ、ぅ、るさぁぃわねぇ……。ょよ、よわいわよぅ……っ……う、うぅ……あん、た……ほど、なんでも、わりっきれなぁい……。あっんた、こん、なにぃ、こんなにっ、つらい気持ち、どん、なときも、抱えてぇ……いたのぉ? あああ、ぁぁあんた、明日、悪魔ほろぼして、消えちゃうなんてぇ、そんなの……やめなさぁいよおぉっ! ぁ、あんたっって……バカっ、あんた、ってさ、クールに見えても、バカだったぁの、ねえぇぇ……っ……っ……」
ユーディット「あんたじゃなくて……ユーディット、と呼んで……レナータ……」
レナータ「……ユーディット、ゃ、やめてっ、悪魔と魔の城とっ、共に消失なんて、バカなコトはっ! そうする以外にも、方っ法っが、あるはずよぉ!! あた、し、あんたとやっと、やっとぉとも、だち、になれる……の……そーでしょっ? これからもっ、あんたが、必要なのっ……あたしも、ジークもっ! ……あんた、ぅんん、ユーディットがいなくなったんならぁ、あたし、誰とケンカぁすればいーのよぉっ……うぅぅ、うう、ああぁぁっ……ふっ……う、ううう……ぅ……っ……」
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