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咎人の終わり
「ふ、ふふふふふ。うふふふふふ」
笑いが止まらない。
私は、兄さんの胴体から切り離した両腕を胸に抱き、山の暗闇の中で踊っていた。
「ふふふ。うふふふふふ。ふふふ」
やっと、やっと手に入った。私の美しい枝!!
「ああ、これよ! これが欲しかったのよ!!」
そう言いながら、兄さんの手の甲に口付けをする。ずっと欲しかったものが手に入ったのだ。
「兄さん。征樹兄さん。兄さんはそこにいてね。兄さんの腕はずっと大切にするから」
私は地面に埋めた兄さんにそう言った。兄さんの腕以外は余分なものだから、私は若枝を切り落とした前の四つの幹と同じように、この山奥に埋めたのだ。
「兄さんの腕さえあれば何もいらない」
兄さんの腕に頬擦りする。この枝がどんなに愛しいことか……。家に帰ってワインでも飲みながら、この二本の枝をゆっくりと鑑賞しよう。私のコレクションが完成した喜びを噛み締めて。
「じゃあね、兄さん」
私は兄さんに最後の挨拶をすると、車を止めておいたところまで、山道を戻ろうとして……。
「あ〜あ。なあ、洋行どうしてくれるんだ?」
背後からの聞こえてくるはずのない声に、背筋が凍った。
「この体、結構気に入ってたんだぜ? それなのに、お前のせいで泥だらけじゃないか」
それは間違いなく兄さんの声。
「服もいい値段したのにな」
どうして? 兄さんはちゃんと首を絞めて殺したはずだ。心臓が止まってなかった? でも、紐で首を絞めたまま埋めたんだ。復活できるはずはない。
「なあ、洋行」
抱きしめていた兄さんの腕が動く。振り向きたくないのに、抱いている兄さんの手が私の顔をぐっと掴んで振り向かせる。そこに、兄さんが立っていた。両腕のない兄さんが笑っている。
それだけじゃない。
兄さんのそばには、若枝を切り落として埋めた四人の仔が立っている。
「ど……どうして……?」
逃げなくちゃ。本気で逃げなくちゃ! 何かわからないが本能のようなものが、私の中で警告音を上げる。でも、抱きしめた兄さんの腕が、私の首を絞めようと動く
「ひっ!!」
兄さんの腕を振り払い、私は山道を駆け出した。だが、すぐに足が止まる、それは……。
「ぎゃ!!」
私が殺した子供達の手が肩を捕えたからだ。切り落としてなかった若枝が私の体に絡みつき、その手のマニキュアもしていない小さな爪が、皮膚を引っ掻く。
逃れようとしても子供達は引き倒した私の体に馬乗りになり、凄い力で私の首を絞めた。
「はははは。洋行、その絶望の顔。それこそが罪人には相応しい」
死んでいるはずの子供達に首を絞められながら、私は兄さんが笑うのを聞いていた。それは、今まで聞いた兄さんの声の中で一番優しかった。
「でもまあ。本当によく育ってくれたよ。こんなに見事に腐った罪人の魂は近頃じゃ珍しい。全く、歪で美しいな。本当に美しい……」
ー完ー
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