枝を拾う

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枝を拾う

 ……枝を集めるのは幼い時からの趣味だった。私の育った家は海岸沿いにあり、嵐の後には海岸に出て、打ち上げられた流木を拾い集めた。それが、満たされない欲望の代わりなのだと気付いたのは、いつだっただろう?  成長し身の内に眠る欲望に気づいても、私は海が荒れた次の日に砂浜に行くのを辞めなかった。枝を拾い続けた。止めてしまっては行き場のない思いが大きくなるだけだとわかっていたから。  でも、私は海から離れてしまった。  正確には、育った家から離れた。  そうでもしないと、自分の中にある欲望を抑えておく自信がなかった。  大丈夫だと思っていた。私にはこれまで拾い集めた流木のコレクションがある。これだけの代替え品があれば、満足できると思っていた。たとえそれが私が望む本物でなくとも、確かに私はその一本一本を愛していたから。 「洋行(みき)! ランチにいこ!!」 「うん。ちょっと待ってね……」  同僚の言葉に私はパソコンをスリープモードにした。そして立ち上がる。ここは都会の真ん真ん中。高層ビルの一角にあるオフィスが私の職場だった。  清潔で、空調が効いていて、無味乾燥な世界。  私には相応しい。 「あのお局さー。もうサイテー。さっきもネチネチと……」 「ちりめんジワのくせに厚化粧でしょ? それが……」 「とりあえず、若い女の子が嫌いなのよ。……」 「そうそう、新入社員の男子たちにばっかり媚び売って、ダサいって……」  ビルの中にある社食に向かいながら、同僚たちはおしゃべりに花を咲かせている。私はその輪には入らずに、気づかれないほど少しだけ、彼女らの後ろを歩いていた。  季節は夏。薄着の女の子たちの二の腕が目に入る。細い若枝のような腕が。  社食はビルの最上階にある、そこへ行くエレベータの中で、同僚の一人がスマホを取り出した。何かの通知があったようだ。 「また行方不明の事件が起こったんだって!」  スマホの画面を確認して、その同僚が声を上げる。他の子達もそれぞれスマホを取り出し確認する。 「本当だ。これで何人目だったっけ?」 「三人目って言ってる」 「怖いよね。こんなに子供が行方不明になるの」 「私の妹、行方不明の子たちと同じぐらいの年なの。気をつけるように言ってるんだけど……」  私も、スマホを取り出し、同じニュースを確認した。郊外の街で女児が一人、昨日・日曜日の夕方から行方不明。それだけの記事を。  ニヤけないようにするのに力を使った。
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