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 中東の砂の上、9000メートルの成層圏から降りてきた巨大な機体。  幽霊を意味する「スペクター」という不吉な通り名のAC-130Hガンシップは、影のように空を泳ぐ。 「こちらホワイト。  ハーティ爺さん、最高だぜ、このドラ猫は」  短距離無線を通じて、(たかぶ)った声が弾む。 「そうかい。  喜んでもらって何よりだ。  できればこの目で飛びっぷりを拝ませておくれ。  何しろ世界初の大傑作だからな」  ケイ・ホワイトは返事の代わりに操縦桿を引き、出力を上げた。  トムキャットの代名詞である可変翼をわずかに絞り、アフターバーナーなしでの上昇性能を見せ付けようと腹を見せて垂直の体勢を取った。  口笛を吹いて見守る中、F-14STスーパートムキャットは旋回した。 「ところで、ラルフはどうしたんだ」  老人は声を(ひそ)めた。  中東では昨日話していた相手がいなくなることなど日常茶飯事である。  地獄の激戦区に来る者は、明日も空にいるとは思っていないのだ。  しかし、彼は気になる男だった。  家族を持ち、戦争と真正面から向き合って戦う強者は、なかなか出逢うものではない。 「実は、ヘマをやってな。  帰りの便に積んでって貰いたい」 「まさか ───」  ハーティの声が上ずった。 「死んじゃあいない。  念のため検査を受けて、休養を取らせてやってくれ」  外人部隊アル・サドン空軍基地のグライドパスに載せた幽霊は、少し機体をブレさせながら何とかタッチダウンした。
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