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 スペクターの腹には、注文を受けていたミサイルや部品の箱が所狭しと詰まっている。  この前などは墜落した機体をバラして載せてきたものだから、途中で安物のミサイルを捨ててきたのだった。 「今回は、サイドワインダーの追加分を捨ててこなかったようだな」  アル・サドン空軍基地司令官のナセルがコツコツと荷物の一つを拳で叩きながら言った。 「まあ、コンピュータの替えが落ちてたら、ミサイルより優先だろう」  申し訳なさそうに手を組んで、ハーティ・ホイルが目を伏せた。 「今度は人間も載せてってもらう。  うちのエースを捨てないでくれよ」 「スーパートムキャットより価値があるさ。  そう言わんでくれ」  ホワイトは離れた所で検品していたが、あらかた済むと近づいてきた。 「なあ、爺さん、こんなことを聞いたら、気を悪くしなさるかな」  数々の戦場を渡り歩いてきた武器商人の老爺は、視線を合わせずに(うなづ)いて、言葉を待った。  彼の目は、空を見る、というより泳いで定まらなかった。  数分の沈黙を挟んで、ホワイトが上を向いたまま口を開いた。 「爺さんにも、家族がいたのかい」  雷に打たれたように、老人はビクッと肩を震わせた。 「お前さんこそ ───」  ギョロリとした目がホワイトの心臓を射貫いた。 「俺は ───」  なぜか、枯れたはずの涙が(にじ)んだ。  口角を引き()め、頬の皺を深くした。 「白い天使は、俺の、希望は、(まぶ)しすぎたのだ」 「捨てたなどと、ワシも恰好(かっこう)つけちゃあいるが、幸せの方から愛想を尽かしたのさ」  老人も、空を見上げてため息をついた。 「良かった。  俺の手足は、人間の手で作られたのだな」 「まあ、違いない。  ワシも、地獄の鬼に嫌われたクチさ」  ハンガーへと歩いて行く2人の背中は、夕日を受けて金色に輝いていた。  忙しく走り回るフォークリフトが、影を長くして基地の奥へと消えて行くのを、冷え込んでくる空気を深く吸いながら見つめたホワイトは、やはりハーティ爺さんに悪いことを聞いたなと思い、軽く地面を蹴ったのだった。
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