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 ハンガーへと消えて行くキンバリーの背中を、ガラクは砂を含んだ冷たい風に身を縮めて眺めていた。  星が綺麗な銀の絨毯(じゅうたん)のように広がる空と、青白い光に照らされた砂とコンクリートの地獄。  パリには輝く街灯があった。  しかし空はいつもどんよりとして、人々は自分たちが作り出した風景にばかり目を奪われていた。  管制塔の方から、一つの影がゆっくりと片手を上げて近づいてくるのに気がつくと、張りつめていた気持ちが緩んで、肺の底に溜まった息を細くして吐き出した。 「お待たせ、娘たちよ」  ニッコリと母親の顔に戻ったゼツは、娘よりも溌溂(はつらつ)として、髪を掻き上げながら言った。 「なかなか、お前もやるようじゃないか」  カムスは彼女の振る舞いに出鼻を挫かれて黙っているしかなかった。 「何してきたのよ、お母さん」  頬を膨らませて地面を踏み鳴らしたガラクの苛立ちは、ジェナーには微笑ましく見えてしまった。 「ゼツ、さん、でしたよね。  その気になれば、私たちを片付けるのは簡単なのでしょう。  指令がそう仰って ───」  深刻そうに暗い顔を見せる彼女を見て、ゼツは一瞬にして真顔に戻る。 「実は、アル・サドンのエースであるこの子の父親が倒れた」 「え ───」 「何だって」  ようやく口を開いたカムスは顔を(しか)めた。  敵方のパイロットとは言え、戦況によってはこちらにも影響が出るかも知れない。  誰もがラルフを心配しているのが可笑しくなって、ゼツはますます口角を上げて笑いながら、 「恐らく、政府軍も、反政府軍も、つまらない小競り合いをしている場合ではなくなりそうだよ」 「まさか ───」 「安らぎの都、アル・ファラージャが、卑劣なテロの標的になっている ───」
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