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「悪いが、食ってくれねぇ?」
サラダを食べ終え、ボーッと彼の顔を見ていると、彼は気まずそうにハンバーグ定食を私に差し出した。
「腹一杯で」
ステーキ定食はあと少しで無くなりそうだ。
「もう、だから言ったのに」
私はやれやれと首を降りつつも受け取った。正直、サラダでは空腹が全く治まらなかったので、これはありがたい。
「それじゃ、行こっか」
食事を終えると、デパートで買い物をして、薄暗くなった頃、駅に着いた。
「今日はありがとう。今度は動物園でも行こっか」
「良いね、私カピバラ見たい」
「じゃあ、良いところ探してまた連絡するね」
最後に二人で抱き合ってその日は解散となった。
それから、仕事で忙しく、連絡が取れずにいた。翌週の日曜日。家で寛いでいると、携帯が鳴った。
画面を見ると、彼の電話番号だった。一度咳払いをし、声を整えて通話ボタンを押した。
「もしもし〜?」
『あっ、もしもし』
「えっ、義母様!?」
電話に出たのは彼ではなく、彼のお母様だった。
「どうして、彼の電話から?」
『その、今からうちに来れるかしら? 場所は覚えてる?』
お義母さまとは、一度顔を合わせて以来、意気投合し、本当の娘のように思ってくれていた。彼の実家にも何度かお邪魔していた。
「はい! すぐ行きます!」
『待ってるわ』
お義母さまは普段より少し小さく、落ち込んだ声で電話を切った。私はすぐに化粧をして家を出た。
もしかしたら、何か悲しいことがあったのかもしれない。途中にあるケーキ屋でお義母さまの好きなケーキを買って彼の実家に向かった。
彼の実家は結構育ちの良い家庭で、家も三階建ての一軒家だ。家に着いている駐車場には、お高そうな車が3台並んでいた。
「あの、お義母さまに呼ばれて」
「いらっしゃい。ごめんね、急に呼んじゃって」
インターホンを鳴らすと、お義母さまが出てきた。化粧も薄く、普段の明るさが無い。
「全然大丈夫ですよ! ケーキ買ってきたので、食べましょ」
「そうね……とりあえず、中に入ってちょうだい」
私はいつも以上の笑顔でケーキを掲げたが、お義母さまの表情は優れない。
リビングに入ると、珍しくお義父さまもいた。
「お茶、入れるわね。そこに座ってて」
「いえ、私が」
「良いから」
椅子から立ち上がろうとするも、お義父さまの手で椅子に押し戻されてしまう。
お義母さまが紅茶とケーキをそれぞれの席に置くと、私の正面に座った。お義父さまはその隣に座って、腕を組んで俯いている。
「その、なにかあったんですか?」
流石の私もその空気が異様なことに気づき、不安げに聞いた。
「息子が……自殺したの」
「…………え?」
お義母さまは両手で顔を覆って崩れ落ちる。それを隣のお義父さまが背中を摩る。私はポカンと口を開けたまま動けなかった。
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