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「えっ、ど、どうして」
絞り出すように声が溢れた。お義父さまが私の前にすっと一枚の封筒を差し出した。
「遺書だ」
「遺書……」
私は震える手でそれを開いた。
そこには彼らしい丁寧な字で、両親と私への感謝と謝罪。そして。
「もう隠すことに疲れたって……」
「私たちが……私たちがあの子を殺したのよ! 我慢させていたのよ、こんな事なら自由にさせてあげれば……!」
思わず読み上げてしまった。お義母さまが叫んで頭を掻きむしる。私がそれに若干引いていると、お義父さまから女の子のキャラクターの付いた鍵と小さな紙を渡された。大きさ的に家の鍵のようだ。
「息子の家の鍵だ」
「えっ」
それは、私が一度も行かせてもらえていなかった場所だ。
「そこの物を、君に渡そうと思う。そこにも書いてあるだろう?」
「え?」
私は遺書にもう一度目を戻す。すると、確かに下の方に、家の物は全て両親と私で好きにして欲しい。出来れば大切にして欲しいと書いてあった。
「でも、お二人は」
「私達はあれを見てたら、きっとおかしくなってしまう。あいつも君の為になったら多少、報われるだろう。良かったら見てきて、出来れば持って帰ってくれないか?」
「そう、ですか……分かりました」
あのご両親をここまで思わせるなんて、一体何があるのか、私は若干の緊張と怯えを覚えつつ彼の実家を後にした。
私が立っていたのは小さなボロアパートだった。鍵と一緒に渡された紙にはこのアパートの三号室の住所が書いてあった。
「え、ここ?」
てっきりタワマンとか、もう少し綺麗な場所に住んでいると思っていた。私は一応部屋のベルを鳴らした。
「ジリリリ」と田舎くさいベルが鳴るが、誰かが出てくる気配はない。覚悟を決めて鍵を挿すと、ガチャリと回った。
ギギギィと軋む扉を開ける。そこで私は思わず口を覆った。壁と天井には隙間なくびっしりとポスターが貼られていた。それも俳優や野球選手なんかではない。
貼られていたのは女の子のキャラクターだった。それも水着や肌の露出の多い女の子の絵だ。床には小箱が沢山積まれていた。プラスチックの窓が付いていて、中のフィギュアが分かるようになっていた。中には壁のポスターと同様露出の激しい女の子のフィギュアばかりだった。
部屋の中も同様、部屋中にフィギュアや、グッズが大量に積まれていた。部屋の真ん中には薄汚れた布団。辺りにはカップ麺や、コンビニ弁当のゴミが散乱していたが、不自然なまでにフィギュアは綺麗だった。こんな環境でも、このグッズ類を大切にしているのが分かった。
「もしかして、これを知られたくないから?」
私は側に落ちていたグッズを一つ拾う。国民的にも人気なアニメの女キャラクターの缶バッジだ。
「こんな、こんな、ものの為に死んだの?」
私はポトリと缶バッジを落とした。
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