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夜が訪れガス灯がともる。例のガス灯の下に一人の女が立つ。彼女がハーネットで間違いないだろう。
俺は彼女に近づき声を掛ける。
「君がハーネットかな。シャーロットについて聞きたい事があるけど、良いかな」
記者証を見せながら話しかける。
「また。事件の事は。もう勘弁して欲しいわね」
「悪いね。これで教えてもらえないかな」
俺はこの界隈で彼女と一晩過ごすのに必要な金を渡す。
「おじさん。気前がいいね。良いよ。知っていることなら教えてあげる」
客と寝ないで、質問に答えるだけで同じ金が貰えるとなり、ハーネットの機嫌は良くなった。
「シャーロットが客と部屋に入っていくところを見たかい」
「見たけど。私もほぼ同時に隣の部屋に入ったからね。お客の顔までは見ていないよ」
先を読んでの回答だ。何度も警察から質問されていて、慣れているような感じにも取れる。
「お客の顔は構わない。どんな感じの人だった。年齢とか幾つくらいの人かな」
「そうだね。黒いコートのような服を着ていて、年齢は分からないけど、おじさんじゃなかったね。若い感じの紳士のような人。感じのよさそうな人だったかな」
「良く覚えているね」
「ジロジロとは見なかったけど、まあ。ほぼ同時だったからね。それなりに覚えていたってかんじかな。もしかしたらその人が犯人とか」
「まだ断定はできないな。隣の部屋にいたと言う事は話し声とか聞こえたと思うけど、どんなことを話していたかな」
「こっちもお客と話をしているからね。隣の話なんていちいち聞いていないよ。ただ。会話をしていたのかな?それとシャーロットはお客と寝たのかな?」
「どうしてそんな疑問が浮かぶのかな」
「まあ。普通聞こえてくるんだよね。話し声くらいは。それと、ベッドの軋む音や喘ぎ声とか。お客を喜ばせるために喘ぎ声を敢えて大袈裟に上げたりするんだけどね。その辺の音や声が聞こえなかったんだよね」
確かに不思議な点だ。客はシャーロットとは行為に及ばずに、直ぐに殺害して、身体を切り裂いたと言う事か。
「ところで、終わったのは何時くらいかな」
「終わった?何時になっても終わらないから、管理人が確認に部屋に入ったってことだよ。あっ。そう言えば、私達が終了する前に、ドアを開けてお客が出て行ったような音がしたかもしれない」
「出て行ったのはシャーロットの方かもしれないだろう」
「足音で分かるはよ。あの足音はお客で間違いないわね」
時間内に事は終了させたと言う訳か。決められた時間を過ぎてしまえば、管理人に見られてしまう恐れがあるからな。システムは熟知していたと言う事か。
「そろそろ良いかな。こっちも生活かかっているんで」
「最後にシャーロットってどんな娘だった」
「どちらかと言うと普通の娘だったね」
「普通と言ってもね。誰かに恨まれているような感じとか、なかったのかな」
「そこまで踏み込んだ会話なんてしないわよ。それにこの世界に足を踏み入れてくるんだから、訳アリって娘が殆どでしょう。お互いそんな事を聞きあって傷を深めるようなことなんてしないわよ」
ハーネットは最後にもっともらしい事を言い残して、俺の前から歩き去った。
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