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被害者の名前はカルローナ。職業は娼婦。殺された後に腹を切り裂かれ臓器の一部を持ち去られる。ここまでは同じだ。顔をズタズタに切り刻まれている以外は。恐らく同じ犯人と見て良いだろう。
ここでも黒いコートのような服を着た、若い感じの紳士風の男が目撃されている。
今回は上の判断で、警察の発表前に記事を載せる事になった。前回、この事件をメインに載せた新聞がかなり売れたからだろう。
だが、これをやると次で警察が報道規制をかけてくるだろう。思い切った判断をしたとしか言いようがない。
現場を抑えた記者からの話からすると、持ち去られた臓器は性器及び性器周辺の臓器で間違いないだろう。
疑問は顔まで切り刻む必要性と言う事になるが……。
ここで色々と考えを巡らせても回答は出てこない。俺は現場で調査を行う事にする。朝から昼間は調査。夜は担当となった建物の見張り。
ハードな日々が続くことになる。
だが、罪なき娼婦が二人も惨殺された事件を、ただ報道しているだけで終わらせてはいけない。
最後まで徹底して向き合う必要がある事件だ。
殺風景な現場に足を踏み入れる。石造りの建物を背凭れにして、座り込んでいるボロボロの服を着た男を見かけた。
「こんにちは。昨日の夜は大変でしたね」
記者証を見せて話しかけてみる。
「大変なんてものじゃなかったよ。警察に連れていかれて質問攻めにあって、ようやく解放されたよ」
「どうして?例の事件の建物で娼婦と寝ていたのかい」
「そんな金なんかねえよ。ただ、建物の近くにいたと言うだけでだ」
「酷い話だな。良かったらその時の状況を聞かせてもらえないかな」
「警察でも話したけどね。とにかく悲鳴が響き渡り、一気に人が集まり出し、大騒ぎになったってことさ。特に事件の現場を見た訳じゃない」
「警察ではどんな事を聞かれたんだい」
「そうだな。周辺にどんな人間がいたかをしつこく聞かれたな。犯人を見たとでも思っていたのかね。飲んだくれで、住居のない俺がそんな事、聞かれも分かりやしねーよ」
男はかなり不機嫌な感じで回答を続ける。
「特に行動が変な人は見かけなかったのかい」
「娼婦共が並んで立っている界隈だ。ろくな奴ばかりが集まってくる。全員が怪しく見えちまうよ」
「そうだね。そんな中で特に怪しそうな人はいなかったかい」
「怪しい奴ばかりだよ。どちらかと言うと怪しくはない奴が目に入ってくるのさ。コートを着た金持ち風の男とかさ」
「その男はどんな感じだったか覚えているかい」
「そうだな。中年で紳士風の男だった」
「どんな感じだった。どんな行動をとっていた」
「鼻髭を生やしていた立派な感じの男だったよ。皆が走り回っている中を堂々と歩き去っていったね」
「その男は事件のあった建物から出てきたのかい」
「そこまでは覚えていない。ただ、そんな男を見たと言うだけだ」
「他に黒いコートを着た若い感じの男は見なかったかい」
「若い男なら何人も見かけたけど、怪しい感じの奴ばかりだったな。そう言えば、ニヤニヤしながら歩いていた奴がいたな。黒いコートのような服を纏っていたけど、そいつが建物から出てきた奴かどうかまでは分からない」
「他に何か気が付いた事はなかったかい」
「他にね……。特にはないね。そう言えば、鼻歌を歌っていた奴がいたような気がするな。どこかのおかしい奴だろう」
男は吐き捨てるように言った。
「ありがとう。今夜はこれで楽しんでくれよ」
俺は男に酒場で少し楽しめるくらいの金を渡して、この場を去った。
男はようやく笑みを浮かべた……。
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