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被害者のカルローナが利用していた宿の経営者に話を聞くことにした。既に会社の人間が話を聞いていると思うが、改めて聞いてみるのも悪くないだろう。新たな発見があるかもしれない。
悲壮感の漂う空気に包まれた建物の中へと入っていく。受付のカウンターに一人の中年女性が立っていた。
「俺はローウイック。カルローナの事で聞きたいことがある」
記者証を見せて話しかける。
「あの事件のせいで色々な人が来るね。うんざりだよ」
「申し訳ない。これで少しでも事件について教えて貰えると助かる」
俺はこの宿の一泊の費用を女性に支払った。
「分かったよ。聞きたいことはなんだい」
少し機嫌が良くなったみたいだ。
「カルローナはどんな娘だった」
「良い娘だったよ。上納金も文句を言わず真面目に収めてくれた。稼ぎの良い娘だったからね」
「稼ぎが良かった。人気があったと言う事で良いかな。他の娘に嫌われているとかなかったかな」
「そのとおり。娼婦仲間では評判が悪かった。まっ。客を取られた妬みだろうけどね」
「娼婦仲間でのトラブルが多かった?」
「娼婦仲間じゃトラブルなんて日常茶飯事だよ。私の客を取りやがって、なんて良くある話さ」
「ところで、カルローナは仕事場として他の宿を利用していたことは」
「ここだけと言う事はないだろうね。殆どの娼婦は何か所も利用しているよ」
「客を取られた恨みはかなり根深いのか」
「そこは分からないね。人によってと言う事になるかな」
「人によってとは」
「人によって、客を取られた事に関して、どう思うかってことさ。人によって、恨みの度合いは違うだろう」
女性は厭らしい笑みを浮かべる。
「そうだな。人によって受け止め方は違うな。些細な事でも、執念深く捉えてしまう人もいる」
「そう言う事。お役に立った」
「今後の参考にさせて頂きます。ところでカルローナと親しかった者がいたら教えてもらえないかな」
「娼婦仲間で親しくしているなんてないね。彼女の素性を知りたいなら、本人にきくしかないね」
「分かったよ」
俺はそう言い残して、ここを去ることにした。
恨みの線か……。
あり得ない訳ではないが……。
明日の新聞には惨殺された娼婦の写真が載る。記事は現場を抑えた記者が書いた。
警察の報道規制がかかるかどうか分からないが……。
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