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「さて、お前には消えて貰おうか」
冷たい眼差しで揺蕩う靄を睨みつける。言の刃は悪しき存在ではあるものの直接的な殺傷能力はない。生き物に憑りついて感情を暴走させる以外の力は持たないのだ。その上、意識無きものにも憑りつけない奴は、時が止まったこの空間では無力に等しい。
「人形風情が我らの邪魔をするなあ!」
嗚呼、珍しい。言葉を交わせるタイプの言の刃か。稀にそういう奴もいるが、だから何だという。どんな奴であろうと消すだけ。
リュートを奏でて奴を倒そうとした瞬間、靄が滑らかな動きで向かってくる。人形であるこの身に憑りつけることなど不可能だというのに愚かなものだ。
靄がツヴァイの身体に触れると、何かに弾かれるように靄が跳ぶ。
本当に愚かだなと目を細めて冷徹な視線を浴びさせた。
抱えたリュートの弦に指を添えた時、何処からか笛の音が聞こえる。
「う、が、ガガガア」
醜い雄叫びを上げ、靄が霧散する。
「ツヴァイ」
「姉さん」
振り返れば、スカートの裾を翻しながらアインスが此方に向かってきた。彼女が歩く度に踝に巻かれたアンクレットの鈴が鳴る。
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