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紫陽花、桔梗、金盞花、秋桜、石楠花、椿、薔薇、牡丹、百合。色とりどりの花が咲き乱れる庭園の中央には白いドームの形をしたガゼボ。そこにあるベンチに座った青年──ツヴァイはリュートを抱えて、細く長い指先で弦を弾き優雅に音を紡ぎ出した。
汚れ一つない真っ白なマントのフードから飛び出た絹糸のような美しい黒髪は首元で緩く結われ、身体が動く度に僅かに靡く。
リュートが生み出す音に呼応するかのように花たちが揺れた。穏やかな時間が緩やかに続く。
「はあ」
ツヴァイの口から僅かに吐息が漏れる。一曲弾き終わり、睫毛を震わせながら目を開けた。ラピスラズリの双眸に色彩豊かな花たちが映る。弦から褐色の指を離してリュートをベンチに置いた。
代わりに白いテーブルに置かれた瓶を手に取る。それにはカラフルな飴が入っており、そのうちの一つ、チェリー色のものを取り出した。そして、口に含んだ瞬間に鼓動が早くなり、熱い想いが、身を焦がすような強い想いが身体を駆け巡る。
最後は飴をかみ砕いて失くした。次に瓶からアクアマリン色の飴を出し、口内に放り込む。瞬く間に胸の絞られるような悲しみに襲われた。愛する者との死別、友の裏切り、失恋、大きなミスなど大小様々な悲しい出来事が脳裏に映し出される。
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