épisode 28 Canari et Saphir, après cela

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épisode 28 Canari et Saphir, après cela

 人工島のヴィラの白い屋根に、強烈な太陽の光が降り注ぐ。エメラルドグリーンの海は()いでいて、大きな窓から見える桟橋の向こうでは、採れたての島の果実を麻の(かご)に入れて売る商人の姿が見える。  メープル材のテーブルの上には、白いティーポットに入ったジャスミンティーと、大きな苺のケーキが乗っている。一番大きくカットされたものを皿に取って、ソファに座った蘭童は長い足を組んだ。 「俺はね、最初っからこうなるって分かってたから」  サングラスを(ひたい)に上げて、大きな口でケーキと苺に噛りつきながら続ける。 「槐、俺の功績(こうせき)はでかいよね。こんど莉絃ちゃんと三人で仲良くしようね」 「絶対だめ」 「おまえが莉絃ちゃん連れて行ったあとの俺の苦労ときたら……研究所の人間には通報されるわ、制御室の警備員に追われるわ、紬と芹嘉に質問攻めにされるわ……もう大変なんて言葉で表しきれるものじゃなかったぜ」 「紬さんと芹嘉に手紙書いちゃった。出していいかな」  莉絃がテーブルの下から出した、人工島の美しい花の写真がプリントされたメッセージカードを、槐の大きな手が摘み上げた。 「もう中枢統制部は解体されるんだ、もちろん送れるよ」 「楠のジジイ病院行きだなんて、しぶてえよなあ。ま、でもそこは莉絃ちゃんの美人なお友達が頑張ってくれたんだよね」 「燦菜が俺と蘭童との通信を、院長を通じてアカデミーの上層部に送ってくれたからね」 「俺のために……燦菜は最高の親友だよ」 「えっ、俺は、俺は? 親友というよりもっとステディな関係?」 「無関係じゃない? 莉絃はここで俺と治療を続けるし」 「分かってる。ただ、俺も治療に混ぜてくれ」 「絶対だめ」 「もうっ! なんでこいつのエロい治療がアカデミーの病院で特別扱いされるわけ?」 「実績を残したからでしょ。楠の実験とは切り離して、今回俺みたいなαがΩに与える影響について、アカデミーが研究したいって名乗り出たんだから、いいことじゃん」  莉絃は取り皿の上のケーキを頬張りながら、興奮気味に頷いた。 「俺たちの治療が将来の技術として役立つの、楽しみだね」 「り、莉絃ちゃん……そりゃそうなんだけど。役得すぎるぜ、槐。俺もアカデミーの生徒になって素敵な学園生活を満喫しよっかな」 「馬鹿か。こんどはアカデミー上層部や反楠派が台頭してくるんだ。俺たち旧中枢統制部員はそれこそ鬼のように問題の収拾のためにこき使われるでしょ」 「ダメ! もう俺は莉絃ちゃんと南国ライフを送るって決めたからぁ。って言うか、今日は莉絃ちゃんお帰りの楽しい会なんでしょ? 辛気(しんき)臭い話はナシで!」  ジャスミンティーを飲み干した蘭童は、キッチンの冷蔵庫から勝手にシャンパンを出すと、派手な音を立てててコルク栓を抜いた。途端、真っ白な泡が大きな瓶の口から噴き出す。 「ちょっと、勝手に何やってんだよ」 「グラス出して、グラス。乾杯しよ」 「床拭かないと……っ!」  リビングのラグを拭こうとした莉絃は零れたシャンパンで足を滑らせる。床に尻を打ち付ける前に、背中から槐に抱えられ、そのまま身体を預ける体勢になる。 「すぐこけるんだから」  微笑みを浮かべる柔らかな青い瞳に顔を覗き込まれ、莉絃は照れくさそうに俯いた。 「ま、いいけど。これからは俺がそばにいて支えるから――ずっと」  柔らかな唇の感触を頬に感じて、莉絃は顔を赤らめて抱えられた腕の中でもがいた。  ずるいっ俺も、という蘭童の声が響く。  騒々しいヴィラの庭に植えこまれた大きなヤシの木が爽やかな潮風を受けてそよぎ、エメラルドグリーンの水面を軽やかに揺らした。 Fin.
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