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「そんなの……」
好きに決まってる。だけど、なんだか言うのが恥ずかしい。
「待て、ちょっと待て、やっぱり待て」
彼が慌てて私を止め、私は怪訝に彼を見た。
「イエスならトリート、ノーならトリックな!」
「なによそれ」
「俺だって緊張してるんだよ!」
赤くなってそっぽを向く彼に思わず噴き出した。なんだかいつになく彼がかわいい。
「笑うなよ。いいか、きくぞ、今度こそきくからな」
彼は深呼吸してからまっすぐに私を見る。
「トリックオアトリート!」
「……トリート」
私が答えると、彼は顔に驚愕を満たした。
「マジで!? ほんとに!?」
「本当に」
直後、私は彼に抱きしめられた。その温かさに私の体温が急上昇する。
「まじ嬉しい。絶対大切にするから」
彼の声が、チョコレートよりも甘やかに濃密に耳に響く。
「……うん」
私が答えると、彼は私の頬に自分の頬を寄せる。
かぼちゃのにたにた笑いに見守られながら、私は彼の温かさにずっと包まれていた。
終
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